第2回「振り込まれた金額が、求人票より少ない理由」(別タブで開く)で、給料明細の話をしました。
控除欄に並んでいるものの中で、いちばん大きいのはたいてい厚生年金保険料(こうせいねんきんほけんりょう・会社勤めの人が払う年金の会費)です。毎月、いちばん大きな金額が、そこから出ていっている。
あのとき、こう書きました。年金の仕組みそのものは大きな話なので、この連載の別の回でじっくりやります、と。
お約束のままにしていたので、今日お返しします。
わたしは長いこと、年金をこう思っていました。
自分が毎月払ったお金が、自分の名前のついた箱にたまっていって、年をとったらその箱が開く。銀行の積み立てみたいなもの。
違いました。
いま払っているお金は、いま年金を受け取っている人のところへ、そのまま渡っています。
つまり、、、あなたの箱にたまっているのではなくて、いまこの瞬間、どこかの誰かの生活費になっている。
そして、あなたが受け取る番になったときは、そのときに働いている人たちが払います。
貯金ではなく、仕送りです。世代をまたいだ、大きな仕送りの流れ。
この仕組みを知ると、ニュースでよく見るあの議論の意味が、急にわかるようになります。
払った分より受け取る分が少ないんじゃないか、という話です。
貯金なら、こういう議論は起きません。入れた分が出てくるだけですから。仕送りだから、支える人と支えられる人の数が変われば、話が変わってくる。
ここも、意見が分かれるところです。
制度を続けるべきか、変えるべきか、どう変えるべきか。これは人によって考えが違います。立場も、年齢も、家族の形も違うからです。
だから、この連載はそこには立ち入りません。仕組みを説明するところまでが、わたしの仕事です。
ただ、これだけは言えます。仕組みを知らないまま賛成や反対をするのと、知ったうえで自分の考えを持つのとでは、まったく別のことです。
ここからが、今日いちばんお伝えしたいところです。
年金と聞くと、ほとんどの人が老後を思い浮かべます。わたしもそうでした。
でも、公的な年金には3つの顔があります。
ひとつめ。老齢年金(ろうれいねんきん)。
年をとったときに受け取るもの。いわゆる年金のイメージそのものです。
ふたつめ。障害年金(しょうがいねんきん)。
病気やけがで、働くことや暮らすことが難しくなったときに受け取れるものです。
みっつめ。遺族年金(いぞくねんきん)。
家族を養っていた人が亡くなったときに、残された家族が受け取れるものです。
つまり、、、年金は老後のためだけの仕組みではありません。
20代でも、30代でも、明日から関係のある話です。若いから関係ない、という種類のものではないんですね。
わたしはこれを、けっこういい年になるまで知りませんでした。知っていたら、明細の見え方が違っていたと思います。
もうひとつ、形の話を。
日本の年金は、よく2階建てにたとえられます。
1階は、基礎になる部分。働き方に関係なく、みんなが入るところです。
2階は、会社に勤めている人が入る部分。給料の額に応じて、金額が変わります。
給料明細に厚生年金保険料と書いてあるなら、あなたは2階建ての建物に住んでいます。会社が半分を出しているので、明細に書かれている金額と、実際に納められている金額は同じではありません。
自営業やフリーランスの方は、1階の部分を自分で納めます。だから、明細から自動的に引かれることがありません。自分で手続きをする側になります。
ここは、実際に困ったときのための話です。
保険料を払うのがきついとき、いちばんやってはいけないのは、黙って払わないことです。
理由は、老後のことだけではありません。
さっきの3つを思い出してください。老齢・障害・遺族。
未納のまま放っておくと、老後の分だけでなく、いざというときの障害や遺族の備えのほうにも影響が出ることがあります。いちばん必要になる場面で、いちばん困る形です。
そして、ここが大事なところなんですが、払えないときのための制度が、ちゃんと用意されています。
収入が少ないときに、保険料を減らしたり、待ってもらったりする仕組みです。学生のための仕組みもあります。
大事なのは、黙って未納にするのと、手続きをして待ってもらうのとでは、まったく扱いが違うということです。
同じ「払っていない」でも、片方は空白になり、片方は事情として記録されます。
手続きの窓口は、お住まいの市区町村の年金の窓口か、年金事務所(ねんきんじむしょ・年金の手続きをする国の窓口)です。難しそうに見えますが、やることは書類を出すだけです。
つまり、、、払えないことは、恥ずかしいことではありません。黙ってしまうことのほうが、あとで効いてきます。
最後に、確かめ方を。
年に1回、誕生月あたりに「ねんきん定期便」というものが届きます。はがきか封書です。
あそこに、あなたがこれまでいくら納めてきたか、いまの時点でどれくらいの見込みなのかが書いてあります。
わたしは、長いこと開けずに捨てていました。もったいないことをしました。
ネットで見る方法もあります。「ねんきんネット」で検索すると出てきます。
金額の見込みは、これからの働き方で変わります。だから、いま見た数字を将来の約束だと思わないほうがいいです。あくまで、いまの時点での通知表みたいなものだと思ってください。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
引き出しの奥か、書類の山の中か、あるいはもう捨ててしまったかもしれません。それでも大丈夫です。来年また届きます。
見つかったら、開けて、1枚だけ見てください。
数字の意味が全部わからなくてもいいです。自分の記録が、ちゃんとどこかに残っている。それを目で確かめるだけで十分です。
そしてもし、いま保険料を払うのがきつい状況にあるなら。
今日のひとつは、そちらを優先してください。窓口に電話をして、こういう状況なんですけど、と言うだけでいいです。
黙っていても、状況はよくなりません。話した瞬間に、選べる道が出てきます。
前回。税金の行き先をたどりました。
給料明細の話は、こちら。
連載の棚はこちら。
この回で育てる力:お金(副:知性)
次回は、会社の仕組み。給料を払っている側は、どういう形でできていて、そのお金がどこから来ているのか。第2回と裏表の話です。
この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。