こんにちは。秋元進吾です。
前回、変わろうとすると周りが止めてくる、という話を書きました。そのとき「説得しなくていい」と書いたのですが、書いたあとに自分でも思ったんです。
じゃあ、いつ言うんだと。
黙っているのと、押さずに言うのは、別のことです。今日はそっちの話をします。
こういう場面です。
友達に何か言われて、その場では笑って流したけれど、家に帰ってからずっと引っかかっている。
上司に頼まれて、引き受けたけれど、なんとなく納得できていない。
家族に言われた一言が、なぜか3日たっても消えない。
でも、何がイヤだったのかと聞かれると、うまく答えられない。
「なんかイヤだった」
そこで止まる。
止まったまま時間がたつと、こう思い始めます。自分が細かいだけかもしれない。気にしすぎかもしれない。うまく説明できないってことは、たいしたことじゃないのかもしれない。
そうやって、なかったことにする。
これ、けっこうやっていませんか。
先に結論を書きます。
うまく言えないのは、言葉を知らないからではありません。
自分の中で、まだ形になっていないからです。
このふたつは、まるで違います。前者なら、辞書を引けば解決します。でも実際に引っかかっているのは、そこではないですよね。
「なんかイヤ」というのは、雑な感想ではありません。何かがおかしいという信号が、正確に出ている状態です。ただ、その信号にまだ名前がついていない。
だから、やることは語彙を増やすことではなくて、名前をつけることになります。
ここを分けておくと、対処が変わります。
いちばん多いのはこれです。何かがイヤなのはわかるけれど、それが何なのかが自分でもわからない。
これは、このあと書く方法で解けます。
言葉は見つかっている。でも、言ったら相手との関係が悪くなりそうだから、飲み込む。
これは、言い方の問題です。伝える形を変えれば通ります。あとで書きます。
前に言って、流された。だから今回も言わない。
これがいちばん重い。そして、これは言葉の問題ではなく、相手との関係の問題です。この記事で全部は解けません。ただ、最後のほうに少しだけ書きます。
自分がどれなのかを先に見分けてください。1と2は、今日から変えられます。
前回、こう書きました。
試作品は、他人を説得するために作るものだと思っていたけれど、違った。作ってみて、いちばん先に見えるのは自分の気持ちだった、と。
言葉も、まったく同じです。
言葉は、まず自分に言うものです。
相手に伝える前に、自分にわかる形にする。順番はこれだけです。
やり方は、拍子抜けするくらい簡単です。
紙に書いてください。
「今日、〇〇と言われた」
評価も気持ちも入れません。事実だけ。ここに「ひどいことを言われた」と書いてしまうと、そこで思考が止まります。
胸のあたりが重くなった。顔が熱くなった。声が出にくくなった。
気持ちより先に、体のほうが正直なことが多いです。
わたしは、勝手に決められたのがイヤだった。
わたしは、そこは相談してほしかった。
わたしは、努力を見ていてほしかった。
これが名前です。
3つ目まで書けたら、たいてい、そこで少し楽になっています。
つまり、、、言葉にできた時点で、半分は終わっています。
名前をつけるとき、コツがひとつあります。
「イヤ」とひとことで言っても、中身はいろいろだということです。
悔しい。寂しい。心配。もどかしい。置いていかれた感じ。軽く扱われた感じ。
そして、同じ系統でも強さの段階があります。心配の、もう少し先が不安。不安の、もっと先が怖い。
名前が近いほど、体は落ち着きます。
「イヤだった」より「悔しかった」のほうが、置き場所が定まる。「悔しかった」より「本気でやったぶん、悔しかった」のほうが、もっと定まる。
語彙は、ここで効いてきます。覚えるためではなく、選ぶためにです。
感情の言葉は、「感情辞典」という記事に、意味と使いどころをまとめてあります。名前の候補を探すときの地図として使ってください。
それから、もう少し先まで言いたい日のために、こういう形も置いておきます。
わたしは今、(感情)を感じている。
なぜなら、(出来事)があったから。
本当は、(こうであってほしいこと)がある。
だから、(次にすること)をしたい。
4行目まで書けた日は、半分どころか、次の一歩まで見えています。無理に全部埋めなくて大丈夫です。1行目で止まる日は、1行目までで十分です。
とはいえ、紙を前にして1行も書けない日があります。
そういう日は、聞いてもらってください。
人でもいいし、AIでもいい。
わたしはよく、AIに話します。まとまっていなくても、とりあえず話す。すると、話しているうちに、言葉になる前の引っかかりを、向こうが掘り起こしてくれることがあります。「それって、こういうことですか」と返された言葉のほうが、自分の言いたかったことに近い、ということが実際にあるんです。
鏡に映すというより、掘り起こしてもらう感じです。
道具は何でも構いません。大事なのは、ひとりで黙って抱えたまま3日過ごさないことです。
ここは大事なので、少し丁寧に書きます。
同じことを伝えるのに、主語が2通りあります。
「あなたは勝手に決めた」
「わたしは、勝手に決められたのがイヤだった」
内容はほとんど同じです。でも、受け取る側の感じ方はまるで違います。
前者は、相手についての判定です。判定された人は、まず反論を探します。「勝手じゃない、ちゃんと考えた」と。ここから話は、どちらが正しいかの勝負になります。
後者は、こちらの状態の報告です。報告に反論はできません。イヤだったという事実は、こちらのものだからです。
前回、宣言ではなく報告に変える、という話を書きました。あれと同じ構造です。
場面ごとに置いておきます。
どれも、相手を責める言葉がひとつも入っていないことに気づくと思います。それでいて、言いたいことは全部入っています。
ところで、ここまでやってきたことには、もうひとつの意味があります。
第1講で、境界線の話を書きました。あなたには「ここから先はいやだ」という線があって、その線をどこに引くかは、ぜんぶあなたが決めていい、という話です。
ただ、あのとき書ききれなかったことがあります。
線は、引くだけでは相手に見えません。
「わたしは、勝手に決められたのがイヤだった」
そう言えたとき、はじめて、相手からあなたの線が見えます。
今日の話は、自分の線を、自分の言葉で引けるようになる練習でもあるんです。
線の考え方そのものと、断るときの型は、第1講に置いてあります。今日はその手前、自分の線がどこにあるのか、自分でわかるところまでを持って帰ってください。
もうひとつ、実際にやってみるとわかることがあります。
その場で完璧に言葉になることは、まずありません。
だから、こういう始め方を覚えておくと楽です。
「うまく言えないんだけど」
「まだ整理できてないんだけど」
「ちょっと引っかかってて」
この一言を先に置くだけで、そのあとがずいぶん言いやすくなります。
これは逃げではありません。相手に対して「いまから話すことは、まだ途中です」と伝えているだけです。途中だと言われた話に、人はあまり厳しくしません。
きれいに言えるまで待っていると、たいてい言うタイミングを逃します。
さっき3つめに挙げたやつです。
これは正直に言うと、この記事で解決できません。何度言っても流される相手というのは、実際にいます。あなたの言い方の問題ではないことも多い。
だから、こう考えてみてください。
言葉にするのは、相手を変えるためだけではありません。
自分が、自分の状態をわかっているためです。
わかっていると、次に同じことが起きたときに、その場で気づけます。気づけると、飲み込む前に一拍おけます。一拍おけると、選べます。
相手が変わらなくても、こちらの選択肢は増えます。
そして、紙に書いたものは消えません。あのとき自分は、ちゃんとイヤだと思っていた。その記録が手元に残ります。なかったことにしないための、いちばん小さな方法です。
前回も書きましたが、いちばん言いにくい相手は、たいていいちばん近い人です。
近い人ほど、言わなくてもわかってほしいと思ってしまう。そして、わかってもらえないと、余計に言えなくなる。
そういう相手には、大きな話を1回するより、小さな話を何回かするほうが通ります。
「あ、いまのちょっと引っかかった」
その場で、5秒。これくらいで十分です。
まとめて伝えようとすると、こちらも身構えるし、相手も身構えます。ためこんでから出すと、量が多すぎて、相手には急に怒られたように見えてしまう。こちらは何か月ぶんなのに、相手には初耳なんですよね。
今日やることはひとつだけです。
紙でも、スマホのメモでも構いません。誰にも見せなくていいです。
書いたあと、何もしなくて大丈夫です。
うまく言えないんだけど、から始めていいので。
人生は、たとえ遠回りしても、いつでも今からリニューアルできます。
前回は、変わろうとしたときに周りが止めてくる話でした。
感情の言葉を探すときの地図はこちら。
境界線の考え方と、断るときの型はこちら。