こんにちは。秋元進吾です。
第4講は中高生本人に、第5講は親御さんに向けて書きました。今日はいよいよ、先生に向けた回です。これで進路の話は3部作の完結です。
先に言っておきますね。今日も、誰かを責める話ではありません。むしろ、先生の肩の荷を下ろす話です。
進路指導で、こんな感覚を持ったことはありませんか。
最後のやつ、けっこう来ますよね。時間をかけて一緒に考えたのに、最後にボールがこちらに戻ってくる。
でも、これは先生の力量不足ではありません。
「職業名ベース」で話してしまうと、生徒の思考が止まりやすい。それだけなんです。
「看護師ってどう思う?」「公務員は安定してるよ」・・・職業名で話しはじめると、生徒の頭の中では、憧れと世間の評判と偏差値だけがぐるぐる回りはじめます。考えているようで、実は比べる材料を持っていない。だから黙るしかなくなるんです。
ここで、前提をひとつ、ひっくり返させてください。
進路指導とは、本来「答えを出す場」ではなく、考え方を整える場です。
だからこの記事の質問集には、はっきりした方針があります。
進路指導は、決断させるための時間ではなく、思考を整理する時間。
この前提に立つだけで、先生の立ち位置は大きく変わります。「答えを持っていなければいけない」という重さから、降りていいんです。
ここからは、面談や授業でそのまま使える質問を、5つのSTEPで並べます。全部やらなくて大丈夫です。使えそうなものを、ひとつ選んでください。
目的:憧れ・世間評価・思い込みから距離を取らせる
狙いは、職業を作業単位に分解させることです。「ユーチューバーになりたい」が「企画を考えて、撮影して、編集して、数字を見る仕事」に分解されると、はじめて「自分に合うか」を考える材料になります。
目的:仕事と自分の相性を考えさせる
分類の軸は、この6つ。板書もしやすいです。
3つ目の質問が、いちばん大事です。得意は、成績ではなく「消耗の少なさ」に表れます。やっていて極端に疲れないこと。それがその子のとりえの候補です。成績表には載らないので、質問しないと本人も気づきません。
目的:自己否定にならずに、相性を見極める
ポイントは、向き・不向きを「ダメ出し」にしないことです。「向いていない=ダメ」ではなく、向いていない要素を知る方向へ。不向きが1つ見つかるのは失敗ではありません。その子の取扱説明書が1ページ増えた、ということです。
目的:先を見据える視点を持たせる
未来は、先生にも私にも当てられません。だから当てにいかない。見るのは予測の正しさではなく、変化への耐性です。「この道がこの先どうなるか」は分からなくても、「この道で身につく力が、他でも使えそうか」は考えられます。
目的:挑戦できる進路に変える
逃げ道を用意するなんて弱気だ、と思われるかもしれません。でも、実際は逆です。
逃げ道がある選択は、前に進める選択です。退路が全部ふさがっていると、人は一歩目が出ません。「違ったら戻れる」と分かっているから、思い切って扉を開けられるんです。
ここまでの5つの質問には、共通の考え方があります。
進路とは、生徒が見えない扉の前に立つ瞬間です。
扉の向こうは分からない。分かるのは名前と評判と数字だけ。
ここで大人がやりがちなのは、「この扉がいいよ」と指をさすことです。親切のつもりで、私もやりそうになります。
でもそれは、生徒から考える時間を奪ってしまう。
では、何をどう照らすのか。ここが今日の本題です。
進路指導の多くは、たとえるなら「懐中電灯」です。
懐中電灯は、足元を照らします。一歩先の安全を確認する光。この成績でここは受かるか。この資格は取れるか。願書は間に合うか。
これはとても大切です。致命的な失敗を避けるために、必要な光です。
でも、懐中電灯だけでは足りないんです。
近くは見えるけれど、遠くが見えない。すると進路は、こうなりがちです。
一つひとつは合理的です。でも方向の軸がないと、「数を打てば当たる」「ダメなら次」という、行き当たりばったりの歩き方になります。
街灯は、遠くをぼんやり照らします。
足元の安全は保証してくれません。そのかわり、道の方向、街の輪郭、その道が行き止まりかどうかを見せてくれます。
進路における街灯とは、こういう光です。
第4講の「3つの円」(興味・適性・需要)は、実はこの街灯の光を作る道具です。円を重ねる作業は、遠くの方向をぼんやり照らす作業なんです。
冒頭の場面に戻ります。生徒に「先生はどう思いますか?」と聞かれたら。
答えを言ってはいけない、とは言いません。先生の経験は、生徒にとって貴重な情報です。
ただ、順番だけ変えてみませんか。
先生の意見も言うけど、その前にひとつだけ教えて。
その仕事の1日で、一番長い時間って、何をしてると思う?
意見を渡す前に、質問をひとつ挟む。それだけで、面談は「答え合わせの場」から「一緒に考える場」に変わります。
そして意見を言うときは、第5講で親御さんにお願いしたのと同じ形で。
命令ではなく、情報として。「先生はこう見えるよ。判断材料のひとつにして」と渡せば、生徒の考える時間は奪われません。
ここまで読んで、「そんな丁寧な面談をする時間がない」と思った方もいると思います。
そのとおりだと思います。40人の生徒に、この5STEPをフルでやるのは現実的ではありません。
だから、こう使ってください。
質問は、道具です。道具は全部いっぺんに使わなくていい。ポケットにひとつ入っているだけで、面談の景色が変わります。
この講習では毎回、最後に「1つだけ」お願いをします。全部やらなくていいです。1つだけ。
「その仕事の1日で、一番長い時間は何をしてると思う?」
これだけで大丈夫です。生徒の目が少し変わる瞬間が見えたら、それがSTEP2以降の入り口です。
良い進路指導とは、
不確実な世界を生きるための、考え方そのものを手渡すことです。
先生がやるべきことは、扉を選ぶことでも、背中を無理に押すことでもありません。
足元には懐中電灯を。遠くには街灯を。
2つの光を教室に置くこと。それが、本当に力のある進路指導だと、私は思います。
もし今の話が少しでも「参考になった」と思ってもらえたなら・・・この講習は、あなたにとって価値があった証拠です。この時間は、無駄ではありません。
もしよく分からなかったとか、つまらなかったとしても大丈夫です。今日学んだことを、しっかり覚えておいてください。いつか学んだことの意味を、肌で感じるときが来ることでしょう。あせらなくて大丈夫です。
秋元進吾でした。