こんにちは。秋元進吾です。
第4講は、進路の話をします。
はじめに、大人を代表して謝っておきます。
「将来、何になりたいの?」
あの質問、答えられなくて当たり前です。無茶な質問なんです。
「好きなことが見つからない」
「やりたいことがないまま、時間だけが過ぎていく」
そう思っている人にこそ、読んでほしい回です。今日は、あの質問が無茶な理由と、代わりに何を考えればいいかの話をします。
大人はよく聞きますよね。
「将来、何になりたいの?」
答えられないと、なんとなく気まずい空気が流れる。「まだ決まってなくて・・・」と言うと、心配そうな顔をされる。
でも、ちょっと考えてみてください。
この質問、「職業の名前で答えろ」と言っているんです。
じゃあ、あなたは職業の名前をいくつ言えますか。
先生。医者。看護師。警察官。美容師。パティシエ。プログラマー。ユーチューバー。保育士。公務員。・・・数えてみると、だいたい20か30くらいで止まりませんか。
世の中には、仕事が何種類あると思いますか?
・・・どれだと思いますか。ちょっと考えてみてください。
正解は、3番です。
でも実は、3番でもまだ足りません。
厚生労働省が作っている職業分類の索引には、18,725件の職業名が載っています。1万どころか、その倍近くあるんです。
あなたが名前を知らない仕事のほうが、圧倒的に多い。
つまり「将来、何になりたいの?」という質問は、こう言っているのと同じです。
「見たことのないメニュー表から、今すぐ1つ選べ」
無茶ですよね。
答えられないのは、あなたの意欲や能力の問題じゃありません。質問のほうが、ちょっと無茶なんです。
だから今日は、質問を変えます。
「何になりたい?」ではなく、
「自分は、何に反応する人間なのか?」
こっちなら、答えの材料が自分の中にあります。
紙に、丸を3つ描いてみてください。少しずつ重なるように。
この3つが重なるところが、あなたのスタート地点になります。
先に大事なことを言っておきますね。
重なった場所は「絶対の正解」ではありません。 納得して一歩踏み出せる場所、というだけです。
進路は、正解を当てるクイズじゃなくて、自分の地図を作っていく作業です。だから、それで十分なんです。
では、1つずつ見ていきます。
興味とは、自然に気持ちが向いてしまうものです。
誰にも言われてないのに気になる。つい見てしまう。またやりたくなる。その話題になると、ちょっと前のめりになる。
ここ、大事なところなんですが。
興味は、立派な夢の形で出てくるとは限りません。
「医師になりたい」「デザイナーになりたい」と言える人もいます。でも、そうじゃない人のほうが多いです。
最初は、もっと小さくていい。
「なんか気になる」
「これなら見ていられる」
「これをしてると時間を忘れる」
その小さな反応が、材料になります。
適性とは、自分にとって比較的やりやすいことです。
ここで多いのが、「才能がないから、適性なんてない」という勘違い。
適性は、最初から上手にできる特別な才能のことじゃありません。こういう形をしています。
友達に勉強を説明するのが苦じゃない。細かい作業をしても、そんなに疲れない。人の話を聞くのが自然にできる。整理や分類が好き。攻略法を考えるのが苦にならない。
これ、全部ヒントです。
そして適性には、やっかいな性質があります。
自分にとっては普通すぎて、本人が気づいていない。
苦労せずにできることって、「みんなできるでしょ」と思ってしまうんですよね。だから自分では数えない。
だから、こうしてみてください。
人から「それ助かる」「よくできるね」と言われたことを、メモしておく。
自分に見えない適性を、他人が先に見つけていることがあります。褒め言葉は、お世辞じゃなくてデータです。
需要とは、人や社会から求められることです。
どれだけ好きで、どれだけ向いていても、社会とつながる形にならないと、仕事にはなりにくい。だから、ここも見ておきます。
ただし、これは「お金になりそうな道を選べ」という話ではありません。
自分の興味や適性が、社会の中でどう活かせるかを見る。 そういう意味です。
好きなものを、そのまま仕事の名前にする必要はありません。
好きな世界の周りには、いろいろな関わり方があります。
これが、次の話につながります。
いったん、料理に置きかえてみますね。
自分は餃子が好き。でも、包む作業がまだ難しい。
逆に、味噌汁なら作れる。でも、そこまでワクワクしない。
さらに、凝った料理を作りたいけど、家族はすぐ食べられる夕食を求めている。
このとき、「好きだからこれ」「作れるからこれ」「喜ばれるからこれ」と、どれか1つだけで決めると、たいてい無理が出ます。
自分も作ってみたい。今の自分でも挑戦できそう。食べる人にも喜ばれそう。
この3つが重なると、納得のいく一品になる。
進路も、まったく同じです。
偉そうに書いてきましたが、私自身がここで失敗しています。
中学・高校のころ、私は数字が大の得意でした。公文で特訓もして、計算はかなり速かった。だから、自然にこう考えたんです。
「数字に関わる仕事につこう」
そこで目標にしたのが、税理士や公認会計士でした。大学も商業系の学部を選びました。筋は通っていますよね。数字が得意だから、数字の仕事へ。
ところが、入って愕然としました。
数字は、電卓が計算してくれるんです。
そして実際に学ぶ中身は、難しくてややこしい法律用語ばかりでした。私が得意だった「速く正確に計算する力」は、ほとんど出番がなかった。
思っていたのと、違った。
いま振り返ると、自分が何をしくじったのか、はっきり分かります。「数字が得意」を、そのまま職業名に直結させてしまった。その仕事が毎日どんな作業をしているのかを、一度も分解して見ていませんでした。税理士の仕事の中身は「計算」ではなく「法律を読むこと」だった。それを知らずに、看板の名前だけで選んでいたんです。
だから、次の話をします。この記事でいちばん伝えたいことです。
進路の話になると、よくこう言われます。
「好きなことを仕事にすればいい」
でも、この言葉でかえって苦しくなる人がいます。
「絵は好きだけど、描くのは下手だし・・・」
「音楽好きって言っても、楽器できないし・・・」
そうやって、好きなものを進路の候補から外してしまう。
ちょっと待ってください。
好きには、種類があります。
これ、「本当は好きじゃない」という意味じゃありません。
その世界への、関わり方が違うだけです。
ここを分けて考えると、道が一気に広がります。
| 好きの種類 | 具体例 | 進路のヒント |
|---|---|---|
| 見るのが好き | 絵を見る、動画を見る、試合を見る | 鑑賞、紹介、編集、分析、販売 |
| やるのが好き | 描く、演奏する、競技する | 実技、制作、表現、技術職 |
| 作るのが好き | 動画編集、料理、工作、文章を書く | 企画、制作、デザイン、開発 |
| 調べるのが好き | 推し情報、攻略、ニュース | 情報収集、分析、研究、編集 |
| 教えるのが好き | 友達に説明する、後輩に教える | 教育、研修、接客、サポート |
| 支えるのが好き | 裏方、準備、相談役 | 事務、福祉、運営、マネジメント |
| 広めるのが好き | SNS投稿、紹介、レビュー | 広報、マーケティング、発信 |
| 応援するのが好き | 推し活、チーム応援 | コミュニティ運営、企画、販売 |
絵を描くのが苦手でも、絵を見るのが好きなら。展示の企画、広報、編集、販売、SNS運用、アートの紹介。
演奏したくなくても、音楽が好きなら。イベント運営、音響、配信、レビュー、マネジメント。
全部、その世界の中にある仕事です。
つまり、こういうことです。
好きな世界に、プレイヤーとして入らなくてもいい。
見る人。支える人。広める人。整える人。届ける人。分析する人。
コンサートは、演奏する人だけでは成立しません。会場を用意する人、音を調整する人、チケットを売る人、宣伝する人、記録する人がいて、はじめて成り立ちます。
いや、コンサートに限りません。あなたの身のまわり、ぜんぶそうです。
コンビニのおにぎり
米を育てる人。具を考える人。工場の機械を整える人。あの「パリッと開く包装」を設計した人。夜中に運ぶ人。棚に並べる人。
今日の給食
調理する人。献立を考える栄養士さん。食材を仕入れる人。アレルギーを管理する人。あの大きな釜を洗う人。
文化祭のステージ
出る人。照明。音響。看板を描く人。タイムキーパー。受付。写真を撮る人。そして、片づける人。
好きなアニメの1話
声優さんと絵を描く人だけじゃない。音楽を作る人。効果音を入れる人。色を決める人。宣伝する人。グッズを企画する人。配信を動かす人。
サッカーの試合
選手。監督。トレーナー。審判。芝を育てる人。実況する人。カメラマン。チケットを売る人。
今、手に持っているスマホ
設計する人。部品を作る人。アプリを作る人。電波を届ける人。お店で売る人。壊れたときに直す人。
YouTubeの動画1本
出演する人だけじゃない。撮る人。編集する人。サムネイルを作る人。企画を考える人。再生数を分析する人。
毎日乗る電車
運転士さん。車両を整備する人。ダイヤを組む人。夜中に線路を点検する人。駅でアナウンスする人。
病院
お医者さん。看護師さん。受付の人。検査する人。薬を出す人。掃除する人。書類を処理する人。
好きなお菓子
味を決める人。パッケージをデザインする人。CMを作る人。工場の機械を直す人。お店に届ける人。
・・・どうでしょうか。
表に出るのは、たいてい1人か2人。 でも、その世界を成り立たせているのは、何十人、何百人です。
そして、その全員が「その世界に関わっている人」です。
あなたの「好き」も、たぶん同じです。
「好きなことは何?」と聞かれて、すぐ答えられない人。
普通です。
そういうときは、白紙から絞り出すより、選択肢を見ながら選ぶほうがずっと楽です。
自由研究のテーマ決めと同じですね。「何を研究したい?」と言われると困るけど、候補が並んでいれば選べる。
実は私、この「候補を並べる」を、自由研究そのものでやってみました。人気のテーマを100個集めて、実験・観察・工作・調べ学習・料理の5つに分け、難易度と必要な日数まで付けた一覧です。
100のテーマから、あなたに合う1つを。
カテゴリ・難易度・残り日数でも絞り込めます。
眺めてみてください。たぶん、いくつか「お、これは」と反応するものがあるはずです。
興味は、頭から絞り出すものだけじゃなく、選択肢に触れたときの反応として見つかるものでもあります。
学校のパンフレット、職業一覧、大学の学部名。ぱらぱら眺めて、「お、これは?」と反応したものに印をつける。
冒頭で言った「見たことのないメニュー表」問題、これで解決します。選べないなら、まずメニューを見にいけばいい。
進路を考えるには情報も要ります。でも、情報だけでは決まりません。
家では家族の声がある。学校では友達や先生の目がある。スマホを開けば情報が流れ続ける。
そういう場所だと、自分の本音って見えにくいんですよね。
だから、少しでいいので、ひとりになれる時間を作ってみてください。
自分の部屋。図書館。公園のベンチ。放課後の教室。通学途中の静かな道。散歩しながらでもいいです。
そこで、こんな質問を自分にしてみる。
進路は、外から来る情報だけで決めるものじゃありません。自分の内側の声も、大事な材料です。
ゲームが好き。でも、それだけだと進路につながりにくい。
そこで、もう一段下ります。この子は、ゲームの何が好きなのか。
この違いで、方向が変わります。
攻略を考えるのが好きなら、分析や戦略。仲間との協力が好きなら、チーム活動や支援。世界観が好きなら、物語・デザイン・企画。配信が好きなら、動画編集・発信・広報。
「ゲームが好き」で止めない。ゲームの中の、何に反応しているのか。 ここまで下りると、進路の材料になります。
「自分には好きなことがない」
そう感じる人もいます。時間もない、余裕もない。焦りますよね。
その場合、無理に興味から探さなくて大丈夫です。 別の入口から入ればいい。
たとえば、人と話すのは苦じゃない。細かい作業は嫌いじゃない。調べものならできる。体を動かすほうが楽。
これも全部、進路の材料です。
とくに「避けたいこと」は強い材料になります。何が好きか分からなくても、これなら分かる、という人は多いんです。
しかもこれ、ただの愚痴じゃありません。ちゃんと選択肢につながります。
満員電車がいや、通うのがしんどい。ここまで分かっているなら、在宅でできる仕事や、通勤時間の短い地元の職場を先に調べればいい。今は家で働ける仕事も、通信で学べる学校も、昔よりずっと増えています。
嫌なことを消していくだけでも、選択肢は絞れます。
情熱が見つかっていなくても、進路は考えられます。今ある材料で、一歩を選べばいいんです。
進路選びで危ないのは、どれか1つだけで決めてしまうことです。
好きだけで決める・・・好きは大事。でも仕事の中身や環境との相性を見ないと、入ってから苦しくなることがあります。
向いているだけで決める・・・周りに「向いてる」と言われても、自分の気持ちがないと続きにくい。
将来性だけで決める・・・需要は大事。でも自分との相性を無視すると、毎日がつらくなります。
偏差値や学校名だけで決める・・・学校名も大事ですが、そこで何を学べるか、自分が育ちやすい環境かも見てください。
親や先生の期待だけで決める・・・周りの意見は大切です。でも自分の納得がゼロのままだと、後でしんどくなります。
情報を集めるだけで、試さない・・・調べるだけでは分からないことがあります。見に行く、聞く、作る、体験する。小さく試して初めて見えるものがあります。
この講習では毎回、最後に「1つだけ」お願いをします。全部やらなくていいです。1つだけ。
今日の1つは、これです。
たった1つでいいです。
余力があれば、こんなリストにしていくと、3つの円の材料が揃っていきます。
完璧に埋まらなくて大丈夫。空欄があっても大丈夫です。
大事なのは、頭の中だけで悩み続けないこと。
頭の中にあるうちは、同じ悩みがぐるぐる回るだけなんですよね。紙に出した瞬間に、それは「考えられる材料」に変わります。
進路選びは、未来を一発で完璧に決める作業ではありません。
自分の反応を拾う。気になることを書き出す。苦じゃないことを見つける。人に頼まれることを思い出す。社会で求められることを調べる。小さく試す。そして、また見直す。
その繰り返しで、進みたい方向が少しずつ見えてきます。
興味は、変わってもいい。
適性は、経験の中で見えてくる。
需要は、調べながら更新すればいい。
だから、今すぐ完璧な答えを出さなくて大丈夫です。
ただ、何もしないまま時間だけが過ぎるのは、もったいない。
今日できる小さな一歩を、ひとつだけ選んでみてください。
気になることを1つメモする。苦じゃないことを1つ書く。興味のある学校を1つ調べる。先輩に話を聞く。本を1冊手に取る。自分の反応を1日だけ記録する。
その小さな一歩が、あなたの地図に、最初の印をつけます。
進路選びは、才能の証明ではありません。自分の取扱説明書を作る作業です。
焦らなくていい。でも、止まらなくていい。
まずは、自分の中の小さな反応をひとつ拾うところから、始めてみてください。
次回の第5講は、同じ「3つの円」を、親御さん・先生の側から見た話をします。子どもに渡せるものと、渡せないもの。関わり方の話です。
もし今の話が少しでも「参考になった」と思ってもらえたなら・・・この講習は、あなたにとって価値があった証拠です。この時間は、無駄ではありません。
もしよく分からなかったとか、つまらなかったとしても大丈夫です。今日学んだことを、しっかり覚えておいてください。いつか学んだことの意味を、肌で感じるときが来ることでしょう。あせらなくて大丈夫です。
秋元進吾でした。
※職業名の件数は「職業名索引(第5回改定 厚生労働省編職業分類)」に収録された18,725件によります。