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誰も教えてくれなかった仕組み 第3回

そのうまい話は、
なぜあなたのところに来たのか

詐欺・悪徳商法の仕組み

更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました

木のテーブルで左の手がリボンで綴じた分厚い台本を持ち、小口に付箋が並び、右の手には黄色いスポットライトが差している。

こんにちは。秋元進吾です。

連載「誰も教えてくれなかった仕組み」、3本目です。

前回は、給料明細の話でした。お金の入口の仕組みです。

今日は、その入口に入ってきたお金を、外から狙ってくる話をします。

18歳の記事で、18歳になると契約の扱いが変わる、と書きました。未成年者取消権(みせいねんしゃとりけしけん→未成年のうちに結んだ契約などを取り消せる仕組み)は、18歳になってから結んだ契約には使えません。若い人の消費者トラブルについても、注意が呼びかけられています。今日はその深掘り版です。

だましの仕組みを、先にぜんぶ開けておきます。


先に、この記事の立場を言っておきます

だまされる人が、悪いのではありません。

これは慰めではなくて、構造の話です。

狙う側は、それを仕事にしています。相手を信じさせるための言葉や演出を、用意して近づいてきます。どこで急がせるか、どこで特別扱いするか、断られたら何と返すか。あらかじめ考えてある。

こちらは、初めてその場に立つ素人です。しかも即興です。

台本を持ったプロと、即興の素人。これで素人が押し切られたとして、素人の落ち度でしょうか。違いますよね。

だから、この記事がやることはひとつです。

向こうの台本を、先に読んでおく。

台本を知っている観客は、舞台にあげられても、せりふに驚きません。今日はその状態まで持っていきます。

なお、この記事は見分け方と守り方だけを書きます。だます側の手順を細かく再現することはしません。守るために必要な範囲だけです。


いちばん大事な一問

並んだ家の郵便受けすべてに同じ特別な封筒が差さり、手前の一軒で手が封筒をつまもうとして止まっている。

細かい話に入る前に、この記事でいちばん大事な一問を先に渡します。

そのうまい話は、なぜ、
あなたのところに来たのか。

考えてみてください。本当に確実に儲かる方法を知っている人がいたとします。その人は、どうするでしょうか。

黙って、自分でやります。

確実に儲かるなら、他人に教える理由がありません。ましてや、会ったばかりのあなたに、お金を払ってまで広告を出して、教えに来る理由は。

ひとつだけあります。

あなたが払うお金のほうが、商品だからです。

「儲け話」そのものが売り物になっているなら、お金が動くのは、まず売っている側です。うまい話は、向こうから歩いてきません。歩いてきたら、まず立ち止まって、さっきの一問を思い出してください。

この一問だけ持ち帰ってもらえたら、この記事の仕事の8割は終わりです。残りの2割で、台本の中身を見ていきます。


台本の部品は、だいたい5つ

だましの台本は、種類が違っても、似た部品が使われます。ここでは5つに分けて見ます。これだけで、どんな話でも見抜けるという一覧ではありません。

部品1 急がせる

「今日だけ」「先着◯名」「いま決めないと枠が埋まる」。

ねらいは、考える時間を短くすることです。時間をかけて考えられると、さっきの一問にたどり着かれてしまう。だから、たどり着く前に決めさせる。

覚え方はこうです。急かされても、条件や理由を確かめる時間を取ってかまいません。本当に良い話なら、明日も同じ話のはずです。

部品2 特別扱いする

「あなただけに」「選ばれた人にしか話していない」。

言われると、うれしいんです。でも、会ったばかりの相手なら、なぜ自分が選ばれたのかを聞いてみていいところです。

同じ言葉を、ほかの人にも言っているかもしれません。言葉だけでは、話の中身は確かになりません。

部品3 実績を見せる

すごい人の紹介。札束や高級品の写真。「もう何百人がやっています」。

ここで知っておいてほしいのは、見せられる実績は、作れるということです。写真も、紹介も、体験談も、用意できます。むしろ、実績の演出が立派であるほど、そこにお金がかかっている。そのお金は、どこから回収するつもりなのか。そこを考えてみてください。

部品4 小さく始めさせる

「まずは無料で」「最初はワンコインから」。

最初は無料や少額だったのに、あとから高い契約をすすめられたり、続けて払う条件になっていたりする相談例があります。心理学の実験でも、小さな頼みに応じたあと、大きな頼みにも応じやすくなる場合が報告されています。ただし、最初に同意すれば必ず次も同意する、という決まりではありません。

途中で気づいても、「ここまで払ったんだから」と、引き返しにくくなります。でも、これ以上払うかどうかと、すでに払ったお金を取り戻せるかは、別の話です。払った額だけを理由に、次の支払いを決めないでください。返金を求められるかどうかは、別に相談して確かめられます。

入口の金額だけでなく、あとで何にいくら払うのか、どうすればやめられるのかを、先に確かめてください。

右上がりに並ぶ5段のブロックはどれも正面に扉が開き、手前で手が虫めがねを覗いている。

部品5 秘密にさせる

口の前で指を立てる手の先に別の手が差し出され、奥では回転灯が光の輪を放っている。

「親には言わないで」「ここだけの話にして」。

🚨 いちばん強い警報

これが、5つの中でいちばん強い警報です。

なぜ秘密にさせるのか。誰かに相談されると、その場で決めさせにくくなるからです。あなたの隣にいる人は台本の外にいるので、さっきの一問を、あっさり口にします。「それ、なんで君に来た話なの」と。

相談することを止められるなら、その場で決めず、相談できる相手につなげてください。「誰にも言わないで」と言われた瞬間に、席を立っていい話です。


よくある顔ぶれ

台本の部品がわかったところで、18歳の記事で挙げた顔ぶれを、ひとつずつ見分けポイントつきで並べておきます。

もうかる方法を売る高額な情報商材。「方法」が商品になっている時点で、さっきの一問を思い出してください。

友達を誘えばあなたも儲かる、というマルチ商法。気をつけたいのは、あなたが「売る側」に回されることです。友達もトラブルに巻き込んでしまうことがあります。お金だけでなく、人との関係にも影響するおそれがあります。

先輩や知り合いの顔で近づいてくる投資の誘い。不確かな利益を「必ず儲かる」と言い切る勧誘には、注意が必要です。「元本保証(がんぽんほしょう→最初に出したお金が減らないとする約束)」と言われても、誰が、どの条件で保証するのかを確かめないと、中身はわかりません。月ごとの利益の割合を示されても、それだけで安全とは決まりません。言葉だけで判断せず、相手や契約の条件、損をする可能性を確かめられない話は、その場で進めず、相談してください。

無料と思ったら高額だったサブスク。部品4の型そのものです。入口の金額ではなく、出口の条件(やめ方・総額)を先に確認する癖をつけてください。


断り方は、もう持っています

守り方の話をします。じつは、新しい道具は要りません。この連載と講習で、もう渡してあります。

感謝して、確認して、保留する。

「ありがとう。ちょっと考えさせて」

保留は、その場で決めさせたい相手にとって、いちばん困る展開です。だから相手は、保留を許さないように動きます。「いま決めないと」と。

持ち帰れば相手の勧誘が必ず止まる、というわけではありません。それでも、一人で急いで決めずに済みます。

その瞬間が、見分けの瞬間です。あなたの保留を許さない話は、あなたのための話ではありません。

それから、断りにくい相手のために、もうひとつ型を置いておきます。友達や先輩からの誘いは、話の中身より関係が人質になります。そういうときは、断る理由を自分の外に置いてください。

「ごめん、お金のことは家族と相談して決めるって決めてるんだ」

自分の判断で断ると角が立ちそうな場面でも、ルールのせいにすれば、断りやすくなります。それで相手が必ず納得するとは限りませんが、その場で決めないための言葉として持っておけます。これは逃げではなくて、型です。


もし、はまってしまったら

分厚い本を閉じてその上に手を置き、隣では湯気の立つマグとスマホが朝の光の中に置かれている。

ここからは、すでに払ってしまった人、契約してしまった人のための節です。

まず、これを言わせてください。

気づいた時点が、最速です。

もっと早く気づけたのに、ではありません。台本相手に、途中で気づけた。それは遅れではなく、脱出です。

やることは2つです。

ひとつ。追加のお金を求められても、すぐに送らない。「あと少し払えば取り返せる」は、台本の続きです。そして、被害を取り返してあげますと近づいてきて、別の商品を買わせようとする勧誘にも注意してください。取り返そうとして追加で払う二次被害が、実際にあります。

ふたつ。誰かに話す。188(いやや→消費者ホットライン)は、契約したあとでも相談できます。取引の種類によっては、クーリングオフ(一定期間内なら理由なしで契約をやめられる仕組み)が使えることもあります。家族でも、友達でもいい。

支払いを止めるだけで、契約が終わるとは限りません。何を契約したのか、どうすればやめられるのか、返金を求められるかを、相談先で確かめてください。

話しにくいのは、わかります。恥ずかしい、怒られそう、自分が悪い気がする。

でも思い出してください。その「恥ずかしくて言えない」気持ちこそ、台本がいちばん当てにしているものです。すぐに話せなかったとしても、それであなたが悪くなるわけではありません。話しただけで必ず解決するとは限りませんが、相談は、これからの対応を考える入口になります。

だまされたことは、あなたの値打ちと関係ありません。台本が仕事をしただけです。


変わらない三原則

最後に、今日の話を三行にたたみます。

うまい話は、向こうから歩いてこない。
急かす話ほど、その場で決めない。
秘密にさせる話は、その時点で答え。

この三行は、年齢を問わず、確認の目安として持っておけます。台本の細部は流行で変わりますが、確かめることは変わらないからです。


今日、ひとつだけ

手のひらに乗ったスマホの画面に受話器と盾のアイコンが表示され、背後に花の封筒がのぞいている。

今日やることは、ひとつだけです。

🛡️ 今日の1つだけ
スマホの連絡先に、「188 消費者ホットライン」を登録しておいてください。

30秒で終わります。使う日が来ないのが、いちばんです。

でも、もし来たら。あわてている未来のあなたが連絡先を開いたとき、そこに今日のあなたからの置き手紙が入っています。

人生は、たとえ遠回りしても、いつでも今からリニューアルできます。

だまされたあとからでも、です。

2026-09-13 更新
公開後のファクトチェック(GPT-6 アストラ・標準モード)をうけて、次の点を直しました。投資の勧誘は「元本保証」などの言葉だけで判断せず、誰がどの条件で保証するのかを確かめる形に改めました。相談したあとについては、支払いを止めるだけで契約が終わるとは限らないこと、話しても必ず解決するとは限らないことを書き足し、被害が続くのは黙っているからだ、という書き方をやめました。ほかに、5つの型はこれで見抜けるという一覧ではないこと、18歳の説明を制度の変更に限ったことなどを直しました。
2026-09-23 更新
関連記事の案内文「18歳の春に勧誘が増える理由は、こちら。」を「18歳になると、契約の扱いがどう変わるかは、こちらです。」に直しました。9月13日の修正で採用していた差し替え案の反映が、この1文だけ漏れていました。

この連載について

📖 連載 第3回
誰も教えてくれなかった仕組み
知らなかったのは、あなたのせいじゃない。
習ってないだけです。

前回。給料明細の読み方。

連載 第2回
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求人票の金額と、振り込まれる金額。そのあいだにある税金や保険料などの控除を、順番に見ていきます。

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18歳になると、契約の扱いがどう変わるかは、こちらです。

立場と契約の仕組み
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仕組み資料室

公開済みの「仕組み」の話は、ぜんぶここに並べてあります。

資料室をのぞく

次回は、税金の行き先。払ったお金がどこへ歩いていくのかを、たどります。

この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。

秋元進吾でした。

#誰も教えてくれなかった仕組み 第3回

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