こんにちは。秋元進吾です。
連載「誰も教えてくれなかった仕組み」、3本目です。
前回は、給料明細の話でした。お金の入口の仕組みです。
今日は、その入口に入ってきたお金を、外から狙ってくる話をします。
18歳の記事で、「18歳の春、勧誘が増えます」と書きました。未成年者取消権という守りがなくなった直後の人が、狙われやすいという話です。今日はその深掘り版です。
だましの仕組みを、先にぜんぶ開けておきます。
だまされる人が、悪いのではありません。
これは慰めではなくて、構造の話です。
狙う側は、それを仕事にしています。何百人、何千人を相手にして、磨き上げた台本を持っています。どこで急がせるか、どこで特別扱いするか、断られたら何と返すか。ぜんぶ書いてある。
こちらは、初めてその場に立つ素人です。しかも即興です。
台本を持ったプロと、即興の素人。これで素人が押し切られたとして、素人の落ち度でしょうか。違いますよね。
だから、この記事がやることはひとつです。
台本を知っている観客は、舞台にあげられても、せりふに驚きません。今日はその状態まで持っていきます。
なお、この記事は見分け方と守り方だけを書きます。だます側の手順を細かく再現することはしません。守るために必要な範囲だけです。
細かい話に入る前に、この記事でいちばん大事な一問を先に渡します。
考えてみてください。本当に確実に儲かる方法を知っている人がいたとします。その人は、どうするでしょうか。
黙って、自分でやります。
確実に儲かるなら、他人に教える理由がありません。ましてや、会ったばかりのあなたに、お金を払ってまで広告を出して、教えに来る理由は。
ひとつだけあります。
あなたが払うお金のほうが、商品だからです。
「儲け話」そのものが売り物になっている時点で、儲かっているのは売っている側です。うまい話は、向こうから歩いてきません。歩いてきた時点で、うまい話ではない何かです。
この一問だけ持ち帰ってもらえたら、この記事の仕事の8割は終わりです。残りの2割で、台本の中身を見ていきます。
だましの台本は、種類が違っても、使っている部品はだいたい同じです。5つ覚えてください。
「今日だけ」「先着◯名」「いま決めないと枠が埋まる」。
目的は、考える時間を奪うことです。時間をかけて考えられると、さっきの一問にたどり着かれてしまう。だから、たどり着く前に決めさせる。
覚え方はこうです。急かしてくる時点で、答えはほぼ出ています。本当に良い話は、明日も良い話のままです。
「あなただけに」「選ばれた人にしか話していない」。
言われると、うれしいんです。人は特別扱いに弱い。でも、冷静に考えると、会ったばかりの相手があなたを選ぶ理由はありません。
その言葉は、全員に言っています。台本に書いてあるからです。
すごい人の紹介。札束や高級品の写真。「もう何百人がやっています」。
ここで知っておいてほしいのは、見せられる実績は、作れるということです。写真も、紹介も、体験談も、用意できます。むしろ、実績の演出が立派であるほど、そこにお金がかかっている。そのお金は、どこから回収するつもりなのか。あなたからです。
「まずは無料で」「最初はワンコインから」。
入口を小さくするのは、親切ではなくて設計です。一度YESと言った人は、次のYESを言いやすくなります。そして金額は、あとから育ちます。
ここには、もうひとつ仕掛けがあります。途中で気づいても、「ここまで払ったんだから」と、引き返せなくなる心理です。払った金額は、やめない理由に化けます。本当は、払った金額は、もう戻らないお金として切り離して考えるのが正解なのに、それがいちばん難しい。
小さく始めさせられたら、大きく育てられる予定がある。そう覚えてください。
「親には言わないで」「ここだけの話にして」。
これが、5つの中でいちばん強い警報です。
なぜ秘密にさせるのか。誰かに相談されると、台本が壊れるからです。あなたの隣にいる人は台本の外にいるので、さっきの一問を、あっさり口にします。「それ、なんで君に来た話なの」と。
まっとうな話は、秘密にする必要がありません。「誰にも言わないで」と言われた瞬間に、席を立っていい話です。
台本の部品がわかったところで、18歳の記事で挙げた顔ぶれを、ひとつずつ見分けポイントつきで並べておきます。
もうかる方法を売る高額な情報商材。「方法」が商品になっている時点で、さっきの一問を思い出してください。
友達を誘えばあなたも儲かる、というマルチ商法。これの本当の恐さはお金より、あなたが「売る側」に回されることです。友達との関係が、商品に変わります。失うものがお金だけでは済みません。
先輩や知り合いの顔で近づいてくる投資の誘い。「必ず儲かる」「元本保証」「月利◯%」。この言葉が出た時点で、中身を検討する必要はありません。投資の世界で「必ず」を約束すること自体が、まっとうな勧誘ではありえないサインです。
無料と思ったら高額だったサブスク。部品4の型そのものです。入口の金額ではなく、出口の条件(やめ方・総額)を先に確認する癖をつけてください。
守り方の話をします。じつは、新しい道具は要りません。この連載と講習で、もう渡してあります。
「ありがとう。ちょっと考えさせて」
保留は、台本にとっていちばん困る展開です。台本は、その場で決めさせるために書かれているので、持ち帰られると崩れます。だから相手は、保留を許さないように動きます。「いま決めないと」と。
その瞬間が、見分けの瞬間です。あなたの保留を許さない話は、あなたのための話ではありません。
それから、断りにくい相手のために、もうひとつ型を置いておきます。友達や先輩からの誘いは、話の中身より関係が人質になります。そういうときは、断る理由を自分の外に置いてください。
「ごめん、お金のことは家族と相談して決めるって決めてるんだ」
自分の判断で断ると角が立ちそうな場面でも、ルールのせいにすれば、関係を保ったまま断れます。これは逃げではなくて、型です。
ここからは、すでに払ってしまった人、契約してしまった人のための節です。
まず、これを言わせてください。
もっと早く気づけたのに、ではありません。台本相手に、途中で気づけた。それは遅れではなく、脱出です。
やることは2つです。
ひとつ。それ以上、払わない。「あと少し払えば取り返せる」は、台本の続きです。そして、被害を取り返してあげますと近づいてくる別の話にも注意してください。だまされた人の名簿は、次のだましの名簿になります。取り返そうとして追加で払う二次被害が、実際にあります。
ふたつ。誰かに話す。188(いやや・消費者ホットライン)は、契約したあとでも相談できます。取引の種類によっては、クーリングオフ(一定期間内なら理由なしで契約をやめられる仕組み)が使えることもあります。家族でも、友達でもいい。
話しにくいのは、わかります。恥ずかしい、怒られそう、自分が悪い気がする。
でも思い出してください。その「恥ずかしくて言えない」気持ちこそ、台本がいちばん当てにしているものです。被害が続くのは、だまされたからではなく、黙っているからです。話した瞬間に、台本は止まります。
だまされたことは、あなたの値打ちと関係ありません。台本が仕事をしただけです。
最後に、今日の話を三行にたたみます。
この三行は、18歳の春にも、40歳にも、70歳にも、同じように効きます。台本の細部は流行で変わりますが、部品は変わらないからです。
今日やることは、ひとつだけです。
30秒で終わります。使う日が来ないのが、いちばんです。
でも、もし来たら。あわてている未来のあなたが連絡先を開いたとき、そこに今日のあなたからの置き手紙が入っています。
人生は、たとえ遠回りしても、いつでも今からリニューアルできます。
だまされたあとからでも、です。
前回。給料明細の読み方。
18歳の春に勧誘が増える理由は、こちら。
連載の棚はこちら。
次回は、税金の行き先。払ったお金がどこへ歩いていくのかを、たどります。
知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。