会議で意見を求められて、「えっと、つまり・・・」のまま順番が過ぎていく。
映画の感想を聞かれて、「やばかった」しか出てこない。頭の中には確かに何かあるのに、外に出すと三割くらいに薄まってしまう。LINEの文面を、10分かけて書いては消している。
そういう経験が重なると、人はこう結論します。「自分は、言語化が苦手なんだ」と。
でも、先に言い切っておきます。
言語化は、才能ではありません。手順です。
そして手順である以上、どの工程で詰まっているかを見つければ、そこだけ直せます。「言語化が苦手」というのは診断として大ざっぱすぎるのです。エンジンが悪いのか、タイヤなのか、ガソリンが入っていないのか・・・車の不調をぜんぶ「走るのが苦手な車」と呼ばないのと同じです。
頭の中のものが言葉になって外に出るまでには、3つの段階があります。
大事なのはここからです。詰まる場所は、人によって違います。
この記事の主戦場は、③です。①と②の道具はもうサイトにあるので、最後の工程「形にする」の技術を5つ置いていきます。
散らかる話には、共通点があります。主語が「世間」になっていることです。
「普通はこうですよね」「みんなそう思うはずで」・・・主語が大きいと、話は証明になってしまい、証明は難しいので長くなります。
「わたしは、こう感じた」から始めてください。 自分の感じたことなら、世界でいちばん詳しいのは自分です。証明が要らないから、短くなります。
次に、文を2つに割ります。起きたこと(事実)と、自分がどう受け取ったか(解釈)です。
分けると、相手は事実の確認から入れます。混ぜると、相手は反論から入ります。伝わり方がまるで変わるのです。
「ちゃんとしたい」「いい感じにして」「もっと本気で」・・・大きい言葉は、便利ですが届きません。
大きい言葉が出たら、「具体的には?」を自分に1回だけ問いて、1段だけおろします。
全部を細かくする必要はありません。1段おろすだけで、言葉は急に手ざわりを持ちます。
説明のうまい人は、その場でたとえを発明しているのではありません。自分の定番のたとえを、少数だけ持って使い回しています。
わたしの場合は「家(土台と柱)」「川(流れと合流)」「道具箱」の3つです。新しい概念に出会ったら、まずこの3つのどれかに当てはめてみる。当てはまれば説明はもう半分できています。
あなたの定番は、野球でも、料理でも、ゲームでもかまいません。自分がいちばん細部まで知っている世界を1つ、たとえの母艦にしてください。
最後の技術です。書く前、話す前に、届けたい相手を1人だけ思い浮かべます。
誰にでも届く言葉を目指すと、言葉はどんどん抽象的になって、結局誰にも刺さりません。誰にでも届く文章は、誰にも届かないのです。
「みんなに分かるように」ではなく「あの人に分かるように」。1人に向けて研いだ言葉は、不思議と他の人にも届きます。
技術を5つ並べましたが、覚えるより、小さく回すほうが早く身につきます。
おすすめは、寝る前の3行アウトプットです。
ノートでもスマホでも3分で終わります。続けるうちに、話す前に頭の中で3行が組み上がる感覚が出てきます。言語化の練習は、話す練習ではなく、この小さな組み立ての反復なのです。
最後に、いまの時代ならではの道具の話をひとつ。
言葉に詰まったとき、AIに「この気持ちの言い換えを5案ください」と頼むのは、とてもいい使い方です。ただし、条件が1つあります。
選ぶのは、自分。
5案を眺めて、「これは違う」「これが近い」「この2つを混ぜたい」と選り分ける瞬間に、実は言語化の筋力が使われています。逆に、出てきた文章をそのままコピーして使い続けると、その筋力は育ちません。
AIに書かせるのではなく、AIに出させて、自分が決める。壁打ち相手としてのAIは、言語化の練習台として最高の道具です。
「言語化が苦手」は、性格でも頭の良し悪しでもなく、3段階のどこかで詰まっているという状態の名前です。
状態なら、変えられます。気づく練習、名前をつける道具、形にする技術。どれも今日から使えるものばかりです。
人生は、たとえ遠回りしても、いつでも今からリニューアルできます。頭の中のものを外に出す力も、同じです。
(秋元進吾)
今夜、寝る前に3行アウトプットを1回だけやってみてください。①今日いちばん心が動いたこと ②その理由 ③自分の生活とのつながり。うまく書けなくて大丈夫です。3行書けたら、今日は合格です。
段階①「気づく」の練習は、この講に書きました。
段階②「名前をつける」の道具は、こちらです。
言葉を受け取る側の頭の中を想像する話は、こちらです。