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誰も教えてくれなかった仕組み 第7回

その値段は、誰が決めているのか

経済の仕組み

いつも買っているパンがあります。

同じ棚、同じ袋、同じ大きさ。なのに、値札の数字だけが、去年と違う。

誰が上げたんでしょうか。

お店の人でしょうか。作っている会社でしょうか。それとも、もっと別の誰か。

前回の第6回「その会社は、誰のお金で動いているのか」(別タブで開く)で、会社という箱の中を開けました。お金が入ってくる3つの入口と、給料が売上から出ていること。今日は、その箱の外側の話です。値段は誰が決めているのか。そして、借りたお金の利息は、なぜ動くのか。


値段は、誰かひとりが決めていません

まず、パン1個の値段の中身から。

材料代。作る人の人件費。お店の家賃と光熱費。運ぶ費用。そして、会社に残る利益。前回の「売上から出ていくもの」の並びと同じです。原価は消えない、という話は、第1回「その"無料"、誰が払っているか考えたことありますか?」(別タブで開く)でもしました。

でも、値段はそれを足し算しただけでは決まりません。

もうひとつ、綱引きがあります。

買いたい人が多くて、数が足りなければ、値段は上がりやすい。買いたい人が少なくて、余っていれば、下がりやすい。売る側と買う側の、引っぱり合いです。学校の言葉で言うと、需要(じゅよう・買いたい量)と供給(きょうきゅう・売りたい量)ですね。

つまり、、、値段は、誰かひとりが決めているのではありません。かかった費用と、綱引きの結果が、値札の数字になっています。

お店の人も、会社の人も、綱引きの参加者のひとりです。あなたも、そうです。


値段が、いっせいに動くとき

パン1個の話なら、それで終わりです。でも、パンも牛乳も電気代も散髪代も、ぜんぶがいっせいに上がっていくときがあります。

世の中の値段ぜんぶの水準のことを、物価(ぶっか)と呼びます。物価が上がる、というのは、あれもこれも高くなる、ということです。

物価が動く入口も、だいたい決まっています。

ひとつ。材料やエネルギーの値段。

小麦も、石油も、その多くが海の向こうから来ています。向こうで値段が上がれば、こちらのパンにも乗ってきます。

ふたつ。お金の交換レート。

外国のものを買うときは、円を外国のお金に替えて払います。その交換レートが動くと、同じものを買うのに必要な円の枚数が変わります。円の力が弱くなる(円安・えんやす)と、輸入するものは高くなりやすい。

みっつ。人手。

働く人が足りないと、給料を上げないと来てもらえません。上がった給料は、値段に乗ります。前回の人件費の話です。

よっつ。みんなが買う量。

世の中全体で買う量が増えれば、綱引きは上がるほうに寄ります。

「値上げのお知らせ」という紙の裏には、たいてい、この入口のどれかがあります。


同じ千円札が、同じ量を買えなくなります

ここが、暮らしにいちばん近いところです。

物価が上がって、給料がそのままだと、どうなるか。

財布の中の千円札は、千円のままです。でも、買える量が減っています。数字は同じなのに、中身が軽くなる。

だから世の中は、物価と一緒に給料も上がっているかどうかを、あんなに気にします。第2回「振り込まれた金額が、求人票より少ない理由」(別タブで開く)で、求人票の月給に0.8をかける話をしましたが、その数字の重さも、物価が動けば変わってきます。

ここは、感じ方が人によってぜんぜん違うところです。値段が上がって困る人もいれば、値段が上がったおかげで売上が増える側の人もいる。

同じ出来事が、立場で逆に見える。この連載で何度も出てくる形が、ここにもあります。


金利は、お金のレンタル料です

もうひとつの主役、金利(きんり)の話をします。

お金を借りると、返すときに、借りた額より少し多く返します。その「少し多く」の部分が利息(りそく)で、それを割合で表したものが金利です。

つまり、、、金利は、お金のレンタル料です。

借りる側だけの話に聞こえますが、実は、あなたが銀行にお金を預けているとき、あなたは銀行にお金を貸しています。預金の利息は、そのレンタル料です。

銀行は、預かったお金を、家を買う人や会社に貸します。預けてくれた人に払うレンタル料より、貸す相手からもらうレンタル料のほうを高くする。その差が、銀行の商売です。前回の3つの入口のうち、「借入」は、この仕組みの上に乗っています。

そして、金利は動きます。

金利が上がると、借りる人にはきつくなります。住宅ローンを組んでいる人、お金を借りて商売をしている会社。第13講「家を買う前に読む話」(別タブで開く)でも、金利が支払い総額を大きく動かす、と書きました。

いっぽうで、預けている人には、少しうれしい話になります。同じ出来事が、ここでも立場で逆に見える。


金利の土台を、調整している係がいます

じゃあ、金利は誰が動かしているのか。

これも、誰かひとりの気分では決まりません。ただ、土台の部分を調整している係はいます。

日本銀行(にっぽんぎんこう・日銀)です。

お札を発行しているところで、「銀行の銀行」とも呼ばれます。ふつうの銀行が、お金を預けたり借りたりする相手です。ここが、世の中に出回るお金の量と、金利の土台を調整しています。

一般に、金利の土台を上げると、お金を借りにくくなって、世の中の買う量が落ち着き、物価の上がり方もゆるやかになりやすい、と言われています。下げると、その逆です。

ここから先は、意見が分かれるところです。

いま金利を上げるべきか、下げるべきか。物価はどのくらいがちょうどいいのか。これは、立場によって、年齢によって、持っているものによって、まったく答えが変わります。

だから、この連載はそこには立ち入りません。仕組みを説明するところまでがわたしの仕事で、どう考えるかは、あなたの主導権のほうにあります。


経済は、ぐるぐる回っています

第12講「社会は、どんな仕組みで回っているのか」(別タブで開く)で、登場人物は3人、という地図を描きました。わたしたち、会社、国やまち。そのあいだを、お金と働きとサービスが回っている。

今日の話を、あの地図に乗せると、こうなります。

みんなが買う。会社の売上になる。給料が払われる。また買う。この回転が速いときを景気(けいき)がいい、遅いときを景気が悪い、と呼びます。値段と金利は、その回転の速さに効いてきます。

そして、あなたの財布は、この回転のいちばん端っこにあるのではありません。

パンを1個買った瞬間、あなたは回転に参加しています。末端ではなく、参加者です。


数字は、書きません

物価が何パーセント上がった、金利が何パーセント、という数字は、この記事には書きません。毎月変わるからです。

かわりに、確かめ方を置いておきます。

世の中の物価の物差しは、「消費者物価指数」(しょうひしゃぶっかしすう)で検索すると出てきます。国が毎月出している、値段ぜんぶの平均のようなものです。

でも、いちばん確かなのは、あなた自身のレシートです。


今日、ひとつだけ

いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。

🏷️ 今日の1つだけ
いつも買っているものを、ひとつ選んでください。パンでも、牛乳でも、飲み物でも。

そして今日、その値段をどこかに書き留めてください。レシートを1枚、封筒に入れておくだけでもいいです。

数か月たったら、同じものの値段を見てください。

それが、あなた専用の物価指数です。ニュースの数字より、よほど自分の暮らしに近い数字が、そこに出ます。

わたしも、この記事を書きながら、いつも買っているものの値札をひとつだけ書き留めました。

見るまでは、ただの数字でした。見たあとは、ちょっとだけ、綱引きの跡が見えてきます。


この連載について

📖 連載 第7回
誰も教えてくれなかった仕組み
知らなかったのは、あなたのせいじゃない。
習ってないだけです。

前回。会社という箱の中身を開けました。

連載 第6回
その会社は、誰のお金で動いているのか
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値段の土台、原価が消えないという話。

連載 第1回
その"無料"、誰が払っているか考えたことありますか?
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金利が支払い総額を大きく動かす話。

30年飛び級講習 第13講
"買えるか"より"笑って暮らせるか"。家を買う前に読む話
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この連載の地図(1枚目)はこちら。

30年飛び級講習 第12講
社会は、どんな仕組みで回っているのか
記事を読む

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この回で育てる力:お金(副:知性)

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お金の枝
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次回は、お金からいったん離れて、教育の仕組み。学校は、なぜあの形なのか。

この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。

秋元進吾でした。

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