公開日: 2026-08-10
更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました

「将来、何がしたいの?」
進路の面談でも、家でも、たぶん何回も聞かれますよね。そのたびに、うまく答えられなくて、ちょっと気まずくなる。わたしもそうでした。
でも、これ、順番が逆なんじゃないかと思っています。
世の中にどんな仕事があるのかを知らないまま「何がしたいか」を答えるのは、地図を見ないまま「どこに行きたい?」と聞かれているようなものです。まず地図を広げる。話はそれからでいい。
ここは、その地図を広げる場所です。
コンビニで、おにぎりを1個買います。130円くらい。
あのおにぎり1個の裏に、何人ぶんの仕事が入っていると思いますか。
お米をつくった人。運んだ人。精米した人。海苔を養殖した人。具材の鮭をとった人。加工した人。工場でにぎった人(機械かもしれません)。包装フィルムをつくった人。工場を建てた人。トラックで運んだ人。店に並べた人。レジを打つ人。値札のシステムをつくった人。おにぎりの新商品を考えた人。パッケージをデザインした人。売れ行きを数えて次の発注を決めた人。
まだ続きます。トラックの整備をした人。道路をつくった人。工場の電気をつくった人。会社のお金を計算した人。人を採用した人。
130円のおにぎり1個に、ざっと数えて数十種類の仕事が入っています。あなたが今日出会った"ぜんぶ"は、だれかの仕事でできています。
この連載は、そのおにぎりの旅から始めます。
世の中には無数の仕事があります。でも、実はぜんぶ、この1つの文の穴埋めで説明できます。
だれが、だれの何を、だれに届けて、どうやってお金をもらうか
たとえば、コンビニの店員さん。
「雇われている人」が、「本部と取引先の商品」を、「近所に住む人」に届けて、「時給」でお金をもらう
たとえば、そのコンビニのオーナー。
「自分でやっている人」が、「本部から仕入れた商品」を、「近所に住む人」に届けて、「売上から経費を引いた残り」でお金をもらう
同じ店の中に立っていても、この文の中身がちがう。だから見えている景色もちがうし、悩みもちがう。
この文の"空欄"のひとつひとつが、仕事を見わける軸になります。地図の目盛りだと思ってください。
軸は全部で11本あります。多いと思うかもしれませんが、2階建てにすると急にスッキリします。
世の中の仕事が、どう分かれているかを見る7本です。
| 軸 | 問い | 例 |
|---|---|---|
| 1. だれが | 雇われている?自分でやっている? | 社員/個人事業/会社を持つ/投資する |
| 2. だれの商品 | 作る・売る・運ぶ・つなぐ・支える、どの役? | 農家/小売/運送/仲介/メンテナンス |
| 3. 何を | モノ?コト?チエ?時間?お金? | パン/旅行/設計/警備/保険 |
| 4. だれに | 個人?会社?お役所? | コンビニ/部品メーカー/道路工事 |
| 5. どう届く | 川上・川中・川下、どのあたり? | 原料/加工/販売 |
| 6. どうお金 | 1回ごと?毎月ずっと? | ラーメン店/スマホの通信料 |
| 7. モノの一生 | 生む・使う・守る・確かめる・終わらせる、どこ? | 建てる/住む/点検する/検査する/壊す |
自分がどう働きたいかを見る4本です。ここが"コンパス"になります。
| 軸 | 問い |
|---|---|
| 8. 船の大きさ | 大企業?中小企業?ひとり? |
| 9. チームかソロか | みんなでやりたい?ひとりで完結したい? |
| 10. 動かす側か、動く側か | 決める人になりたい?決まったことを形にしたい? |
| 11. 柱は何本か | 収入の柱は1本?複数本? |
進路指導で聞かれるのは、たいてい1階の話です。「どの業界?」「何の職種?」
でも、実際に働きはじめてから効いてくるのは、2階のほうだったりします。同じ仕事でも、大企業とひとりでは、まったく別の生活になりますから。
ここで、いちばん誤解されやすいところを整理しておきます。業種と職種のちがいです。
業種は「その会社が、何の商売をしているか」。
職種は「その人が、どんな仕事をしているか」。
この2つは別ものです。だから、かけ算になります。
たとえば、製造業(業種)の会社にも、経理の人(職種)がいます。病院(業種)にも、経理の人がいます。ゲーム会社(業種)にも、経理の人がいます。
つまり、世の中の仕事は、タテ(業種)×ヨコ(職種)のマス目で見ることができます。国の分類でいうと、タテが20、ヨコが12。それだけで240マス。もっと細かく見れば、タテ1,473 × ヨコ329 になります。
「なりたい仕事がない」と感じるとき、たいていは1マスしか見ていません。マス目で見ると、行き方はいくらでもあります。

ここが、この連載でいちばん伝えたいところかもしれません。
国がつくっている職業の分類は、実は2種類あります。
ひとつは総務省の「日本標準職業分類」。国勢調査などの統計をとるための地図です。
もうひとつは厚生労働省の「厚生労働省編職業分類」。ハローワークで、求人と求職を出会わせるための地図です。
同じ「売る人」を、この2枚はこう書いています。
総務省の地図では「販売店員」の1項目。
ハローワークの地図では、16項目。コンビニエンスストア店員、携帯電話販売店員、ガソリンスタンド店員、化粧品販売店員、衣料品販売店員・・・と、細かく分かれています。

どちらが正しい、という話ではありません。目的がちがうから、分け方がちがう。
統計をとるなら、細かすぎると比べられない。仕事を探す人と会社を結ぶなら、細かくないと役に立たない。
分類は、目的で決まります。これは仕事の話だけではなくて、世の中のあらゆる"分け方"に当てはまる考え方です。学校の科目も、クラス分けも、だれかが何かの目的で引いた線です。
線は、引き直せます。
地図を見るとき、数字がひとつあると立体的になります。この連載では毎回ひとつずつ紹介しますが、ここでは3つだけ。
働く人がどこにいるか。第1次産業(農林漁業)3.2%、第2次産業(製造・建設など)23.4%、第3次産業(サービスなど)73.4%。10年前は第1次が4.2%、第2次が25.2%でした。人はゆっくり、モノをつくる側からサービスの側へ移っています。(令和2年国勢調査)
いちばん人数が多い職種は、事務従事者で21.0%。「なりたい職業ランキング」にはあまり出てこない仕事が、実はいちばん多い。(同)
会社の数でいうと、中小企業が99.7%。働く人のおよそ7割が、そこにいます。テレビでよく見る大きな会社は、数でいえば0.3%です。(中小企業庁)
総務省と厚生労働省の公式分類から、全項目を起こして一覧にしました。省略はしていません。件数は国の公式資料と突き合わせて一致を確認しています。
紙に印刷して壁に貼る用と、スマホで検索する用に分けてあります。
「コンビニ」「看護」「アニメ」と打ち込むと、その仕事が地図のどこにあるかがすぐ出ます。授業やホームルームで、そのまま使ってもらってかまいません。学校・塾の先生方も、ご自由にどうぞ。
全13回を、3つの部に分けています。どこから読んでも大丈夫です。
業種は会社の商売の種類、職種は人の仕事の種類です。「ゲーム会社(業種)で働く経理(職種)」のように、かけ算で決まります。求人票を見るときも、この2つを分けて読むと迷いません。
統計や社会の勉強なら総務省版、実際に仕事を探すならハローワーク版です。この2つを見くらべること自体が、いい勉強になります。
中学公民の経済のしくみ(家計・企業・政府のお金のめぐり)と、高校の必修科目「公共」に、そのままつながります。教科書の図がなぜあの形なのか、この連載を読んだあとだと、たぶん見え方が変わります。
総務省「日本標準産業分類(第14回改定)」「日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)」、厚生労働省「厚生労働省編職業分類(令和4年改定)」、総務省「令和2年国勢調査」、中小企業庁の統計です。各記事の中でも、そのつど示します。
この地図には、正解のルートは描いてありません。描けないからです。
でも、地図があれば、少なくとも「自分がどこにいるのか」はわかります。今いる場所がわかれば、次の一歩は自分で決められます。
まずは序章から、おにぎり1個の旅に出てみませんか。読み終わったころには、コンビニの棚が少しちがって見えるはずです。
(この連載は、書きながら考えています。「ここがわかりにくい」「この仕事はどこに入るの?」という声があれば、ぜひ教えてください。地図は、読む人と一緒につくったほうが、いい地図になりますから)
2026年9月27日 ファクトチェックを行い、数字の窓の令和2年の割合を、第2次産業「23.1%」から「23.4%」に、第3次産業「71.9%」から「73.4%」に直しました。総務省「令和2年国勢調査 就業状態等基本集計」の結果の概要の値です。第1次産業の3.2%と、10年前(平成22年)の4.2%・25.2%は、確認したうえでそのままにしています。