こんにちは。秋元進吾です。
30年飛び級講習、最後の講です。
第4部では、18歳で立場が変わる話、学び方の道具、社会の回り方、お金の話をしてきました。地図は、だいぶ埋まってきました。
最後に残っている、いちばん大きな余白が、これです。
世の中の仕事は、どう分かれているのか。
働くことは、これから先、あなたの毎日のいちばん大きな部分になります。それなのに、世の中にどんな仕事があるのか、その全体図を見せてもらう機会は、ほとんどありません。
人は、知っている仕事の中からしか選べません。だったら、知っている仕事を増やせばいい。
この最終講は、まとめでは終わりません。地図を渡して、終わります。
第4講で、進路の3つの円という話をしました。好きなこと、得意なこと、求められていること。この3つが重なるところを探そう、という話です。
あのとき、書ききれなかったことがあります。
3つの円は、選ぶための「基準」です。でも、基準だけあっても、選べません。選ぶ対象の一覧がないからです。
つまり、わたしたちはこういう状態に置かれています。
メニュー表を見せてもらわないまま、「何にする?」と聞かれている。
知っている料理の名前が5つしかなければ、その5つの中からしか選べません。おいしそうな料理が他に何十とあっても、名前を知らなければ、存在しないのと同じです。
進路に迷う理由の何割かは、迷っているのではなくて、単に一覧を見ていないだけなんです。
第4講で、こんな数字を出しました。世の中の仕事の数は、2022年時点の数えで18,725。いっぽう、わたしたちがすっと名前を言える仕事は、大人でもせいぜい数十個、若いうちなら20個ほどかもしれません。20個だとすると、残りの18,705個ぶんのメニューを、見ないまま注文しようとしていたことになります。
ここで、ひとつ思い出してみてください。
レストランで料理を注文するとき、メニューの全部のページに目を通しますか。
たぶん、通しませんよね。今日のおすすめ、写真つきの一品。お店が目立たせてくれているものだけ見て、決める。ふだんの食事なら、それで十分です。
仕事でも、同じことが起きています。よく名前を見聞きする仕事は、いわば世の中の「おすすめ欄」です。目立つところから選ぶのは自然なことで、あなたのせいではありません。ただ、おすすめ欄の外に、まだ1万8千品以上のページが続いています。
だから今日は、メニュー表を全ページぶん、渡します。
日本には、統計をとるときに使う公式の職業の分類があります。日本標準職業分類といいます。
これがなかなか良い地図なんです。世の中のあらゆる仕事が、大きく12のかたまりに分けられています。
そして、その12がさらに74に分かれ、その74がさらに329に分かれています。
先に、読み方をひとつだけ。正式には、この12を大分類、74を中分類、329を小分類と呼びます。下の一覧では、かたまりの名前の横に(中分類の数 → 小分類の数)を添えました。たとえば(4 → 10)なら、そのかたまりの中に中くらいの部屋が4つあって、それがさらに10の小部屋に分かれている、という意味です。
まず、大きい12から見てください。
会社や役所や店を、まとめて動かす仕事です。社長、役員、部長、店長、役所の課長など。
12のかたまりの中で、いちばん大きな山です。医者、看護師、薬剤師、保育士、教員、研究者、技術者、建築士、デザイナー、記者、音楽家、俳優など。専門の知識や技能で仕事をする人たちが、ここに全部入っています。
91に枝分かれしているというのは、それだけ職種の名前がある、ということです。
書類、数字、手配、受付。会社の中でものごとが流れていくための仕事です。一般事務、経理、営業事務、医療事務など。
売る仕事です。お店の販売員、営業、不動産の仲介など。
人に直接サービスを届ける仕事です。調理、接客、介護、理容・美容、旅行や宿泊など。
安全を守る仕事です。警察官、消防士、自衛官、警備員。
食べものと自然を扱う仕事です。農業、林業、漁業。
ものを作る仕事です。専門・技術職の次に大きな山で、69に分かれています。機械の組み立て、金属加工、食品製造、印刷、検査など。
運ぶ仕事、動かす仕事です。バスやトラックの運転、鉄道、船、航空、建設機械の運転など。
建てる仕事、掘る仕事です。大工、左官、電気工事、配管、土木、採掘など。
荷物を運ぶ、きれいにする、包む。世の中が回るために毎日必要な仕事です。
そして12番目に、この枠があります。どこにも当てはめられなかったもののための箱です。
この12番目の話は、あとでもう一度します。今日いちばん大事なところなので。
12を眺めて、どう感じましたか。
わたしが最初に思ったのは、「自分が思い浮かべていた仕事は、ほとんど1番と2番と4番のあたりだったな」ということでした。
テレビやネットでよく見る仕事、名前をよく聞く仕事は、12のかたまりのうち、ほんの一部に集中しています。
でも実際は、8番の生産工程が69、2番の専門・技術が91。この2つだけで160です。世の中を実際に動かしているものの多くは、あまり名前を聞かないところにあります。
もうひとつ。
この分類は、えらい順ではありません。統計で数えるための並びです。1番が上で11番が下、ということは一切ありません。
そして、どのかたまりが止まっても、生活は止まります。運ぶ人がいなければ、店に物は並びません。掃除する人がいなければ、街は数日で変わります。第12講で、社会は3人の登場人物で回っていると書きましたが、その血流を実際に流しているのが、この12のかたまりです。
さっき保留にした、12番目の話です。
「分類不能の職業」。どこにも当てはめられなかったものが入る箱です。
ここで、この地図について正直に書いておかなければいけないことがあります。
いまの分類は、2009年に決められたものです。それ以降、更新されていません。
つまり、この地図は17年前の世界の形です。
この17年で、名前のなかった仕事がいくつも生まれました。ユーチューバーも、eスポーツの選手も、ドローンの操縦士も、2009年の時点では地図に載せようのなかった仕事です。地図のほうが、まだ追いついていません。
これは地図の欠陥ではなくて、地図というものの性質です。地図は、すでにある土地を写します。新しくできた道は、次に描き直すときまで載りません。
だから、こう覚えておいてください。
それは、はみ出しでも、間違いでもありません。地図より先に、あなたが行っただけです。
12番目の箱は、そういう人のための、空けてある場所だと思ってください。
さて、渡した地図をどう使うか。ここは第11講で渡した道具が、そのまま効きます。
道具1、地図にしてから1マスずつ。
全体をざっくり見る。それから、気になるマスをひとつだけ拡大する。今日はもう、全体を見終わりました。だから次は拡大です。
12のうち、ひとつ選んでください。
好きそうなものでも、まったく知らないものでも構いません。むしろ、名前しか知らないかたまりを選ぶほうが、収穫は大きいです。
そのかたまりの中には、中分類と小分類があります。たとえば「専門的・技術的職業」を開けば、その下に20の中くらいの部屋があり、さらにその下に91の小さな部屋があります。部屋の名前を眺めていくだけで、聞いたこともない職業名が必ず出てきます。
正式な分類は総務省が公開していて、誰でも見られます。それぞれの仕事の内容や必要な技能まで調べたいときは、厚生労働省の「job tag(ジョブタグ・職業情報提供サイト)」が便利です。
そして第11講の道具2「調べる前に、自分の答えを先に書く」も、ここで使えます。調べる前に、自分の予想を1行書く。
「たぶん、この仕事はこういうことをしているんだろう」
書いてから調べると、外れたところが記憶に残ります。仕事の名前を100個暗記するより、5個の仕事について「思ってたのと違った」を経験するほうが、地図はずっと自分のものになります。
一覧が手に入ったので、第4講の3つの円が、やっと使えるようになりました。
好きなこと。得意なこと。求められていること。
この3つの円を、12のかたまりの上に重ねてみてください。
好きの円だけで選ぶと、続けるのが難しい場面が来ます。得意の円だけで選ぶと、面白くない時間が長くなります。求められているの円だけで選ぶと、自分がどこにいるのか分からなくなります。
重なりを探すのは、その3つのどれも捨てないためです。
それから、これは第4講にも書きましたが、いま重なっていなくても大丈夫です。円は動きます。好きは増えるし、得意はあとから育つし、求められていることは世の中の都合で変わります。
地図も、円も、固定ではありません。だから何度でも見直せます。
最後の「今日、ひとつだけ」です。
3つでいいです。名前を見るだけでいいです。
それだけで、あなたが選べる仕事は、今日3つ増えます。
人は、知っている仕事の中からしか選べません。裏を返すと、知った瞬間に、選べる範囲は広がります。今日の3つは、そのいちばん小さい一歩です。
これで、30年飛び級講習は、ひと区切りです。
第1講から第14講まで、渡したかったのは、答えではありませんでした。手札と、地図と、道具です。
ここから先は、あなたの番です。
何度でも、戻ってきてください。この教室は、開けたままにしておきます。
人生は、たとえ遠回りしても、いつでも今からリニューアルできます。
前回。人生でいちばん太い買い物の話。
進路の3つの円は、第4講にあります。
地図の掘り方の道具は、第11講に。
すべての講は、時間割から見られます。