第17講「ニュースが、遠い話にしか聞こえない」(別タブで開く)の続きにあたる回です。
こんにちは。秋元進吾です。
今日は、スマホの画面の話をします。
画面の中の"みんな"と、教室の"みんな"がちがって見えて、とまどったことがある人に向けて書きました。
動画を見ていると、同じ曲が何度も流れてくる。同じネタ、同じ言い回し、同じダンス。コメント欄もその話でいっぱい。「いま、みんなこれにはまってるんだ」と思う。
次の日、学校で話してみた。
「え、なにそれ」
誰も知らなかった。
逆のこともあります。友だちが「これ、みんな言ってるよ」と見せてきた話を、自分は一度も見たことがない。同じ教室にいて、同じ年で、同じスマホを持っているのに、見ている"みんな"がちがう。
調べものでも、似たことが起きます。分からないことを検索したら、「いい」という答えと「だめ」という答えが、両方とも自信たっぷりに出てきた。分からないから調べたのに、調べたら、よけいに分からなくなった。
先に言ってしまいます。
どちらかが世の中を知らないわけではありません。調べ方が下手なわけでもありません。見ている棚が、ちがうだけなんですね。
スマホの画面を、世の中をのぞく窓のように感じていませんか。窓なら、同じ場所から見れば、誰にでも同じ景色が見えます。
でも、画面は窓ではありません。棚です。
スーパーの棚を思い出してください。目の高さに置いてあるもの、レジの横に置いてあるもの、入口に山積みになっているもの。あれは、たまたまそこにあるわけではありません。並べた人がいて、並べ方には考えがあります。
画面の棚も、並べた仕組みがあります。そして画面の棚は、ひとりずつ並べ方がちがいます。これまでに見たもの、長く見たもの、途中で止めずに最後まで見たもの。そういうことをもとに、次に並べるものが選ばれていく、と言われています。おすすめ(→あなたが好きそうだと、仕組みが選んで並べたもの)の欄は、あなたのためだけに開いているお店のようなものなんですね。
だから、画面の中の"みんな"は、うそではありません。ただ、それは世の中の全員ではなく、あなたの棚に並んだ"みんな"です。
棚のいちばん大事なところは、並んでいるものではなく、並んでいないもののほうです。
棚に並んでいないものは、見えません。見えないものは、無いのと同じに感じます。無いことに気づくのは、とてもむずかしいんですね。「知らない」と気づけるのは、知っているもののほうだけだからです。
第14講「世の中の仕事は、こう分かれている」(別タブで開く)で、レストランのメニューの話を書きました。メニューを全ページ見るか、お店が目立たせたおすすめだけを見て決めるか。おすすめだけを見ていると、ほかのページは、無いのと同じになります。画面も、同じです。
もうひとつ。棚を並べる側にも、目的があります。見てもらえる時間が長いほど、画面のあいだに入る広告が見られるからです。無料で見られるものの裏側は、仕組み編の第1回「その"無料"、誰が払っているか考えたことありますか?」(別タブで開く)に書きました。
並べる側に目的があること自体は、悪いことではありません。スーパーの棚にも目的があります。知っておくと、棚の見え方が変わる、というだけです。
「おすすめは流れてくるだけだけど、検索は自分で探しに行っている」と思うかもしれません。
でも、検索の答えも、並んで出てきます。そして、いちばん上にあるものが、いちばん正しいとは限りません。たくさん見られているもの、見られるように工夫されているものが、上に来やすいと言われています。上のほうに、「広告」と小さく書かれたものがまざっていることもあります。
もうひとつ、並び方には時間のずれがあります。何年も前に書かれた答えも、きのう書かれた答えも、同じ顔で並んでいるんですね。
決まりごとは、変わることがあります。第10講「18歳になったら、何が変わるのか」(別タブで開く)で書いた、大人になる年齢もそうでした。20歳から18歳に変わっています。変わる前に書かれた答えも、いまも同じ顔で、どこかの棚に並んでいます。
正反対の答えが両方出てきたのは、あなたの調べ方が悪かったからではありません。ちがう人が、ちがうときに、ちがう人に向けて書いたものが、ひとつの棚に並んでいただけ、なんです。
では、棚を前にしたとき、どこを見ればいいか。見るところは、3つだけです。
・これは、わたしに向けて並べられた棚か。流れてきたものか、自分で探したものか。
・これは、いつ並んだものか。日付があるか。
・この棚に、並んでいないものは何か。反対の意見や、ちがう立場の話は、どこにあるか。
3つめがいちばんむずかしいので、ひとつだけコツを書きます。いつも見ている棚とは、ちがう棚をひとつだけのぞいてみること。新聞でも、図書館の本でも、家の人の話でもかまいません。
それでも決められないときは、保留(ほりゅう→決めるのを、いったん先にのばすこと)にしておけばいいんです。その場で「どっちが正しいか」を決めなくていい。
ひとつひとつの話を、誰が、どこから、どんな意図で出したのかを確かめる道具は、第1講「いつか生まれてくる子のために・・・18歳までにできること」(別タブで開く)の第6章に書きました。この講は、その手前の、並び方の話です。
「おすすめは、便利なのか、危ないのか」。ここは、意見が分かれます。
便利だ、という人がいます。好きなものに早く出会える。探す手間が減る。知らなかった楽しいものを連れてきてくれる、と。
危ない、という人がいます。見たいものしか見なくなる。考えがかたよる。棚の外にある世界を、忘れてしまう、と。
どちらが正しいかを、ここで決めるのではありません。便利さを手放す話でもありません。棚だと知って使うか、窓だと思って使うか。着眼点(ちゃくがんてん→どこに目をつけるか)を、そこに置いてみる話です。
第17講「ニュースが、遠い話にしか聞こえない」(別タブで開く)で、ニュースが遠く聞こえるのは、距離だけではなく、立ち位置の問題でもある、と書きました。画面の棚も、立ち位置のひとつです。自分がどの棚の前に立っているかが分かると、同じ画面が、少しちがって見えてきます。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
指さすだけでいいです。今日はそれで十分です。
わたしも、この記事を書きながら、自分の画面のいちばん上に並んでいるものを、ひとつずつ指さしてみました。指さすまでは、世の中で流行っているものが並んでいると思っていました。指さしたあとは、ちょっとだけ、自分がよく見ているものが並んでいるように見えてきます。
画面の中の"みんな"は、うそではありません。あなたの棚に並んだ"みんな"です。
窓だと思っていた画面が、棚だと分かると、棚の外にも世界があることを思い出せます。思い出せたら、今日はそれで十分です。
前回の講。
あわせて読む講。
全体像は、入口の一枚の絵から。
つながる先:はじめに(第0講)/第17講 ニュースが、遠い話にしか聞こえない/第14講 世の中の仕事は、こう分かれている/仕組み資料室/7つのそだてる力 知性の枝
2026-09-23 公開しました。
AIのサポートを受けながら、私のアイデアと考えを体系化した作品集です。