第16講「お金の話を、誰にも聞けないまま大人になった」(別タブで開く)の続きにあたる回です。仕組み編の"世の中の区画"への入口になります。
こんにちは。秋元進吾です。
今日は、ニュースの話です。といっても、どのニュースが正しいか、という話ではありません。"遠い"ほうの話です。
ニュースを見ていて、こう思ったことはありませんか。「関係ない」。
選挙の話。国の話。宗教の話。どこかの国と国のあいだの話。どれも、大きくて、硬くて、自分の一日とはつながっていない気がする。画面の中の人たちが、画面の中だけで話している感じ。
聞こえないふりをしているわけじゃない。ただ、聞こえてくる音が、遠い。
ここで、ひとつだけ言っておきたいことがあります。遠く聞こえるのは、あなたが世の中に興味がないからでも、勉強が足りないからでもありません。自分がいまどこに立っているのかが見えにくいことも、理由のひとつです。
仕組みの話は、だいたい「箱」の話です。決め方の箱。国という箱。信じることの箱。そして、箱の外。この講では、その4つを、あなたの立っている場所から並べ直します。詳しい話は、それぞれ仕組み編の回に書いてあるので、そちらへ送ります。今日は、自分がどの箱の中にいるかを、見るだけで十分です。
第12講「社会は、どんな仕組みで回っているのか」(別タブで開く)の地図に、登場人物が3人いました。わたしたち、会社、そして国やまち。今日開けるのは、3人目の箱です。
まず、いちばん身近なところから。ものごとの決め方です。
学校にも、まちにも、国にも、それぞれ決まりの決め方があります。国やまちでは、選挙で選ばれた人たちが話し合って決める仕組みになっていて、ひとりの人が全部を決めているわけではありません。そして、その決めたことが、法律や予算(よさん→1年分のお金の使い道の計画)という形に姿を変えて、あなたの暮らしに戻ってきます。
投票箱に入れた一枚の紙が、どこへ運ばれて、何に変わるのか。その道は、思っているよりずっと複雑です。国の話とまちの話で、道が二本に分かれていることも。選挙のほかにも、意見を届ける入口があることも。
どの立場が正しいか、誰を選ぶべきか。それは、ここでは書きません。書くのは、紙がたどる道だけです。道が見えると、「遠い」が少しだけ、「自分の一票の行き先」に変わります。
詳しくは、仕組み編 第9回「その一票は、どこへ運ばれて、何に変わるのか」(別タブで開く)で書きました。
次に、もっと大きな箱。国です。
ほとんどの人は、選んで入ったわけではありません。気がついたときには、もう、名前のついた箱の中にいました。だから、箱の壁が見えにくいんですね。魚に水槽が見えないのと、同じです。
国が、してくれることがあります。道路、消防、学校、裁判所。ひとりでは買えないものを、みんなで出し合って、まとめて買っている。その棚が、国のしてくれることです。同時に、しないこともあります。何を仕事にするか、どこに住むか、何を信じるか。そこは国が決めない側に置かれていて、第15回の言い方をすれば、決めないことが、決めてあります。してくれることと、しないことを、並べて見る。それだけで、箱の壁が少し見えてきます。
国は良いものか、悪いものか。大きいほうがいいのか、小さいほうがいいのか。それは意見が分かれるところなので、ここでは触れません。触れるのは、「あなたは箱の中にいて、その箱には、することと、しないことがある」というところまでです。
詳しくは、仕組み編 第15回「その国は、何をしてくれて、何をしないのか」(別タブで開く)で書きました。
三つめは、いちばん触れにくい箱かもしれません。信じることのうち、宗教(しゅうきょう→神さまや仏さまなど、自分が信じたいものを信じて、その教えを大切にする考え方や、その集まり)の話です。
「うちは特に何もない」と思う人も多いと思います。でも、初詣も、お盆も、クリスマスも、もとをたどれば宗教に由来する行事です。信じているかどうかは別として、行事の形で、みんなの生活に少しずつ入っています。
ここで見ておきたいのは、信じる中身ではなく、置かれ方です。世の中の仕組みの上では、信じる自由と、信じない自由と、強いられない自由が、並んで置かれています。条件を満たして手続きをした団体なら、お寺も、神社も、教会も、法律の上では同じ形の"箱"として扱われています。どれが正しいか、という話は、仕組みの側にはありません。
だから、この箱について知っておくことは、何かを信じることとは別です。誰かに勧められたとき、応じる自由も、断る自由も、自分にあると知っていること。その場で決めなくていい、というのもその自由の中身です。それだけでも、この箱の話は、遠い話ではなくなります。
詳しくは、仕組み編 第16回「お寺も神社も教会も、法律の上では同じ"箱"です」(別タブで開く)で書きました。
最後は、箱の外です。
国の中には、もめごとが起きたときに、最後に止める仕組みがあります。決まりがあって、裁く場所があって、決めたことを守らせる力がある。全部が解決するわけではありませんが、判断を示して、決まったことを実行させるところまでの仕組みが、中には用意されています。
ところが、国と国のあいだに出ると、その仕組みが急に弱くなります。第15回で出てきた主権(しゅけん→自分たちのことを自分たちで決められる力)を、どの国も持っているとすると、国々の上に立って命令する人はいない、ということになります。話し合う場や、裁判で決める場もあるけれど、決めたことを守らせる力は、中にいるときほど強くない。だから、話し合いが届かなくなる理由が、いくつか出てきます。戦争のニュースが遠く聞こえる理由も、人それぞれです。その場所が自分の箱の外で起きているから、という人もいるでしょう。
どちらの国が正しいか、何をすべきか。それは、ここでは書きません。ただ、「箱の中で当たり前に働いている仕組みが、外では弱い」という形だけ、持って帰ってください。それを知っているだけで、同じニュースの聞こえ方が変わります。
詳しくは、仕組み編 第17回「国と国のあいだには、最後に決める人がいません」(別タブで開く)で書きました。
4つを、並べてみます。
決め方の箱。あなたの一票は、道を通って、暮らしに戻ってくる。国という箱。気がついたら中にいて、することと、しないことがある。信じることの箱。信じる自由も、信じない自由も、並んで置かれている。そして箱の外。中で当たり前の仕組みが、外では弱い。
全部に、同じ形があります。「自分は、いくつもの箱と関わって生きている」。
遠く聞こえる理由は、ひとつではありません。ここでは、自分と仕組みとの関わり方、言いかえれば立ち位置から見てみます。箱の中から見ているときは、壁の外側が見えにくい。壁の内側から見えないものは、他人事のように聞こえやすい。
つまり・・・ニュースが遠いのは、距離の問題だけではなくて、立ち位置の問題でもあるんですね。自分がどの箱の中に立っているかがわかると、同じニュースが、少しだけ、こちらを向いて聞こえてきます。
正直に書いておきます。この講で並べた4つの箱は、どれも、意見の分かれる場所のすぐ隣にあります。
誰を選ぶか。国はどこまでやるのがよいか。何を信じるか、信じないか。国と国のあいだで、何が正しいか。
どれについても、この講は、答えを渡しません。渡さないと決めています。この問いの答えを渡すことは、あなたの立ち位置を、わたしが決めてしまうことだからです。
ひとつだけ添えておきます。意見が分かれること自体は、悪いことではありません。分かれるから、決めるための仕組みが要る。第9回はそう書きました。そして、事情がわかることと、それをよしとすることは、別です。第17回はそう書きました。この2つを持っていると、遠い話の聞き方が、少し落ち着きます。
この講が渡すのは、立っている場所の見取り図(みとりず→全体の配置を描いた図)だけです。見取り図を持ったうえで、どう考えるかを決めるのはあなたのほうです。主導権はあなたにあります。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
指さすだけでいいです。今日はそれで十分です。
わたしも、この記事を書きながら、今日のニュースをひとつ選んで、4つの箱のどれの話かを当ててみました。当てるまでは、ただの遠い話でした。当てたあとは、ちょっとだけ、自分の箱の壁が見えてきます。
この講は、入口です。4つの箱の話は、仕組み編に、開けたまま置いてあります。遠く聞こえたものから、開いてみてください。
前回の講。
この講の土台になっている、社会の地図。
全体像は、入口の一枚の絵から。
つながる先:はじめに(第0講)/第12講 社会は、どんな仕組みで回っているのか/第16講 お金の話を、誰にも聞けないまま大人になった/仕組み資料室/7つのそだてる力 知性の枝
AIのサポートを受けながら、私のアイデアと考えを体系化した作品集です。