「家族は何人ですか」と聞かれたら、たぶん、すぐに顔が浮かびます。
一緒に暮らしている人。離れて暮らしている親やきょうだい。もう会えない人を数に入れる人もいると思います。犬や猫を入れる人もいますね。
その数え方は、間違っていません。家族は、まず気持ちの集まりです。
ただ、それとは別に、もうひとつの数え方があります。法律の上での家族です。役所に出す紙にある「世帯主との続柄」の欄や、誰かが亡くなったあとの手続きで出てくるのは、こちらのほうです。
そして、この2つは、ずれることがあります。
ずれているからどちらかが偽物、という話ではありません。ものさしが2本あるだけです。ただ、2本あることを知らないまま、片方だけで話が進む場面があります。今日は、その2本目のほうを開けます。
法律の上の家族を記録しているのが、戸籍(こせき・生まれたこと、結婚したこと、亡くなったことなどを、家族の単位で記録する国の帳面)です。
戸籍には、本籍(ほんせき・戸籍が置いてある場所)があります。
ここでひとつ、よく誤解されるところがあります。本籍は、いま住んでいる場所とは別ものです。引っ越しても自動では動きません。生まれた土地でなくてもかまいません。届け出れば、住んだことのない場所にも置けます。
住んでいる場所を記録しているのは、住民票(じゅうみんひょう)のほうです。戸籍は家族の記録、住民票は居場所の記録。役割が違うんですね。
第10講「18歳になったら、何が変わるのか」(別タブで開く)で、契約の話を書きました。
結婚も、法律の上では、届け出によって成立する決まりになっています。式を挙げたかどうか、一緒に住んでいるかどうかとは、別のところで決まります。
届け出をすると、戸籍が新しく作られます。そして、氏(うじ・名字のこと)を、どちらかに合わせることになっています。
結婚して変わるのは、名字だけではありません。互いに支え合う義務が生まれます。財産の扱いも変わります。相手が亡くなったときの立場も変わります。式の写真には写らないところで、いくつもの仕組みが動きはじめる、ということですね。
親と子のあいだにも、名前のついた仕組みがあります。
ひとつは、親権(しんけん・子どもを育て、守り、子どもの財産を管理する立場)です。権という字が入っているので、親の権利のように読めます。でも中身は、子どもを守る側の責任のほうが重い、という説明がされています。
もうひとつが、扶養(ふよう・生活を支える義務)です。親が子を支えるだけでなく、条件によっては、子が親を、きょうだいがきょうだいを支えることが求められる場合もあります。
このあたりは、知らないまま大人になる人がほとんどです。わたしもそうでした。学校で習った記憶はありません。
人が亡くなると、その人が持っていたものの行き先を決める必要があります。これが相続(そうぞく)です。
誰が受け取るかには、法律で決められた順番があります。配偶者(はいぐうしゃ・結婚の相手)は特別な扱いで、そこに子や親やきょうだいが、決められた順で加わります。
順番も割合も、ここには書きません。制度は見直されることがありますし、家族の形によって変わります。知りたいときは「法定相続人」で調べると、国の機関や法務局の説明が出てきます。
ひとつだけ形にしておきます。遺言(ゆいごん)という仕組みがあって、これがあると、決められた順番とは違う渡し方ができる場合があります。何も残さなければ、法律の順番のほうで進みます。
戸籍とも、気持ちの集まりとも違う、3本目のものさしがあります。
世帯(せたい・同じ住まいで暮らしを共にしている人のまとまり)です。
税金と社会保障は、この単位で動く場面がよくあります。第4回「その税金は、どこへ歩いていったのか」(別タブで開く)で税金の3つの入口を書きましたが、そのうちの「稼ぐ」のところで、扶養している家族がいると税の計算が変わる仕組みがあります。第5回「そのお金は、積み立てられていません」(別タブで開く)で書いた年金にも、配偶者に扶養されている人の扱いがあります。
つまり、、、家族は、気持ちの集まりであり、戸籍の組であり、税と社会保障の単位でもあります。3本のものさしは、ぴったりとは重なりません。手続きの紙がやたら細かいことを聞いてくるのは、どのものさしで数えるかを確かめているからなんですね。
結婚に届け出があるように、離婚(りこん)にも手続きがあります。
話し合いでまとまる場合と、まとまらずに公の場で決める場合があります。子どもがいれば、どちらが育てるか、養育費(よういくひ・子どもを育てるための費用)をどうするかも決めていきます。
ここで、ひとつだけ書いておきます。
離婚は、失敗の証明ではありません。法律が最初から手続きを用意しているということは、起こりうることとして制度が想定している、ということです。家庭のことでつらいときに相談できる窓口も、市区町村や国の側に用意されています。ひとりで抱えなくていい仕組みが、いちおう、あります。
家族の話には、いま議論が続いているところがいくつもあります。
結婚したあとの名字をどうするか。誰と誰が結婚できることにするか。子どもを育てる形をどこまで認めるか。
ここには、立ち入りません。どの論点にも、真面目な言い分が複数あります。そして、それぞれの人の暮らしが、そのまま乗っている話でもあります。
仕組みを説明するところまでが、わたしの仕事です。どう考えるかは、あなたの主導権のほうにあります。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
聞くだけでいいです。今日はそれで十分です。
わたしも、この記事を書きながら、自分の本籍を思い出そうとしてみました。思い出すまでは、住所と同じだと思っていました。違うと知ったあとは、家族という言葉にものさしが何本もあることが、ちょっとだけ具体的に見えてきます。
前回。第2期の最後に、ものが手元に届くまでの道をたどりました。
契約の話は、この講で書きました。
税金の3つの入口は、ここです。
みんなで出し合って渡す型は、この回で。
連載の棚はこちら。
この回で育てる力:関係性(副:お金)
次回は、その国は、何をしてくれて、何をしないのか。
この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。
AIのサポートを受けながら、私のアイデアと考えを体系化した作品集です。