家に食パンの袋があったら、裏を返してみてください。
小さい字で、製造者、と書いてあるところがあります。会社の名前と、住所。
その名前は、たぶん、買ったお店の名前とは違います。
当たり前じゃないか、と思われるかもしれません。でも、ここが今日の入口です。パンを作った人と、パンを売った人が別の人である。ということは、そのあいだに道がある、ということです。
第1回「その"無料"、誰が払っているか考えたことありますか?」(別タブで開く)で、原価は消えない、誰かが先に払っている、と書きました。第7回「その値段は、誰が決めているのか」(別タブで開く)では、値段は費用と綱引きで決まる、と書きました。
そのあいだにある道の話を、今日はします。
作る、運ぶ、卸す、売る。
ざっくり言うと、この4段です。
作るのは、メーカー。袋の裏に、製造者として名前が書いてある会社ですね。原料を仕入れて、工場で形にします。
運ぶのは、運送です。作った場所から、置く場所へ移します。
卸す(おろす)のは、卸売(おろしうり・作り手からまとめて買って、小売店に配る仕事)です。たくさんの作り手の商品をまとめて引き受けて、たくさんの店に配ります。一軒ずつのお店が、何十社もの作り手と直接やり取りしなくて済んでいるのは、ここが束ねているからです。
売るのが、小売(こうり)です。お店です。
そして、それぞれの段に、取り分が乗ります。
取り分、と聞くと、中抜き、という言葉が浮かぶかもしれません。
でも、各段が乗せているものの中身を分けると、こうなります。
ひとつは、その段でかかった費用です。工場の電気代、トラックの燃料、倉庫の家賃、店の照明とレジと人。
もうひとつは、その段で働いた人の代金です。
第2回「振り込まれた金額が、求人票より少ない理由」(別タブで開く)で、給料の明細の話を書きました。あの明細は、この道のどこかの段に立っている、誰かの明細です。
だから、段が多いと値段が上がりやすいのは事実です。ただ、その分だけ誰かの手間が入っている、というのも事実なんですね。どちらか片方だけを見ると、話がずれます。
作った人が、直接売る。産地直送や、ネット販売がそれです。
卸と小売の段を飛ばせるので、そのぶんの取り分は乗りません。
ただし、飛ばした段の仕事そのものが消えるわけではありません。誰かがやらないといけない。
注文を受ける仕組みを用意する。箱に詰める。宛名を書く。運送に渡す。代金を受け取る。問い合わせに答える。返品に対応する。
そして、そこには送料と、決済(けっさい・支払いを済ませて代金のやり取りを完了させること)の手数料が乗ります。ネットの店で、商品の値段のわりに送料が重いな、と感じたことがある人は多いと思います。あれは、飛ばしたはずの段の仕事が、別の名前で顔を出しているところです。
第1回で、無料のサービスは広告のお金で回っていることがある、と書きました。
ものを売る側でも、同じことが起きています。チラシ、ネットの広告、店頭の飾り。あれには費用がかかります。
その費用は、どこから出ているか。売った代金の中からです。
つまり、、、値段の中には、そのものを作る費用だけでなく、そのものを知ってもらうための費用も入っています。
ここに良い悪いはありません。知られなければ売れないので、誰かが払うことになる。多くの場合は、買った人が、値段の中で少しずつ払っています。
第7回で書いた綱引きが、いちばん目に見える現場が、ここです。
売れ残ると、置いておく場所の代金がかかります。食べ物なら、日付があります。だから、値引きが起きます。夕方の値引きシールは、綱引きの結果がそのまま形になったものですね。
作る側から見ると、作りすぎると余ります。少なすぎると、売る機会を逃します。この読み違いの費用も、どこかに乗ります。
返品も同じです。返ってきたものを確かめて、直して、また出す。あるいは処分する。その手間の費用も、値段のどこかに含まれています。
安いものを見たとき、誰かが手を抜いた、と考える必要はありません。段が少ないのか、たくさん作っているのか、値引きの局面なのか。理由はいくつもあります。
道の話をしてきましたが、買う側を守るための仕組みも、別に用意されています。
第3回「そのうまい話は、なぜあなたのところに来たのか」(別タブで開く)で、クーリングオフ(一定の期間内なら契約を取り消せる制度)に一行だけ触れました。訪問販売や電話勧誘など、決められた売り方については、あとから契約をやめられる期間が法律で定められている、と説明されています。
どの売り方が対象で、期間がどれくらいかは、ここには書きません。「特定商取引法 クーリングオフ」で調べると、国の機関の説明が出てきます。
流通の話をすると、その先に議論があります。
段は減らすべきなのか。大きなお店と小さなお店は、どちらがよいのか。ネットで買うのと、店で買うのと、どちらが正しいのか。
ここには、立ち入りません。特定の会社や店やサービスの名前を出して、良い悪いを言うこともしません。
仕組みを説明するところまでが、わたしの仕事です。どう考えるかは、あなたの主導権のほうにあります。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
見るだけでいいです。今日はそれで十分です。
わたしも、この記事を書きながら、台所の袋を一枚裏返しました。裏返すまでは、買った店のものでした。裏返したあとは、ここまで何人か通ってきたんだな、と、ちょっとだけ道のほうが見えてきます。
前回。借りる・増やす・備えるを1本の道に束ねました。
原価と広告の話の出発点は、第1回です。
値段の綱引きは、ここに書いてあります。
道のどこかの段に立つ人の明細は、この回で。
クーリングオフに最初に触れたのは、この回です。
連載の棚はこちら。
この回で育てる力:お金(副:経験値)
次の期は、家族・国・宗教・国と国のあいだの話です。準備ができしだい、お知らせします。
この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。
AIのサポートを受けながら、私のアイデアと考えを体系化した作品集です。