ニュースで、遠い国のもめごとが流れます。
少し見て、画面を消します。自分の一日には関係がないように見えます。
第9回「その一票は、どこへ運ばれて、何に変わるのか」(別タブで開く)を、同じような距離のところから書きはじめました。今日も、同じ場所から始めます。
先に、この回でしないことを書いておきます。どちらの国が正しいかの話はしません。いま起きているできごとの評価もしません。書くのは、国と国のあいだが、どういう作りになっているか、という仕組みのほうだけです。
まず、身近なほうから見ます。
国の中でもめごとが起きたとき、順番があります。話し合う。まとまらなければ、決めてくれるところへ持っていく。裁判所です。それでも従わない人がいれば、力ずくででも決まりを実行する仕組みがあります。
最後に決める人がいて、決まったことを守らせる力がある。これが、国の中の形です。
ふだんは意識しませんが、この仕組みがあるから、力の強い人が勝つ世界にはなっていません。
第15回「その国は、何をしてくれて、何をしないのか」(別タブで開く)で、国の3つの要素のひとつに主権がある、と書きました。よそから命令されずに、自分たちのことを自分たちで決められる力です。
ここで、ひとつ気づくことがあります。
全部の国が「よそから命令されない」のだとすると、国々の上に立って命令する人は、いない、ということになります。
決める場そのものは、あります。国と国が結ぶ約束である条約(じょうやく)があり、話し合うための国際機関(こくさいきかん)があり、国どうしの争いを扱う裁判の場もあります。
ただ、決まったことを守らせる力は、国の中の警察や裁判所ほど強くありません。ここが、今日のいちばん大事なところです。
つまり、、、国と国のあいだは、最後に決める人がいない場所なんですね。
ここから、もう一段入ります。
戦争は、どちらの側にとっても大きな損です。人も、ものも、お金も、時間も失います。勝った側も失います。
ということは、理屈の上では、戦う前に話し合いで決着させたほうが、双方にとって損が小さいはずです。
それでも起きます。なぜか。
ひとつに絞れる原因はない、というのが研究の側の見方です。そのうえで、話し合いが届かなくなる条件として、次の3つが重なるときだ、という整理が広く使われています。
ひとつ目は、読み違えです。
相手がどれくらい強いのか、どれくらい本気なのかは、外からは見えません。そして、交渉の場では、どちらも自分を強く見せます。強がりと本気の区別がつかなくなると、どこで折り合えるのかが、おたがいに見えなくなります。
ふたつ目は、約束を守らせる仕組みがないことです。
今日の約束が明日も守られる保証がない。そう思うと、相手が弱っているうちに、という判断が出てきます。これは、さっきの「最後に決める人がいない」から、そのまま出てきています。
みっつ目は、分けられないものを争っている場合です。
半分ずつにできるものなら、話し合いが成り立ちます。ひとつしかないもの、分けたら意味がなくなるものだと、着地点が見つけにくくなります。
ここで、いちばん誤解されやすいところを書きます。
戦争の話になると、昔からの恨みや、民族どうしの憎しみが原因だ、という説明を見かけます。
研究の側では、少し違う見方が主流だとされています。土台にあるのは多くの場合、利益や、土地や、資源や、安全への恐れといった利害のほうで、恨みや憎しみは、原因そのものというより、あとから注がれる燃料として働く、という見方です。
なぜ注ぐ必要があるのか。人に、命をかけて戦ってもらわなければならないからです。利害の説明だけでは、人は動きません。
だから、憎しみは火種(ひだね・火が起きるもと)というより、あとから注がれるガソリンだ、という言い方ができます。
そして、ガソリンは、ひとりでに湧いてきません。注ぐ人がいます。
ただし、単純にしすぎないよう、ひとつ添えておきます。国の中で起きる争いや、民族のあいだの争いでは、過去に受けた被害の記憶が、直接の火種になることもあると説明されています。どちらか一方に決めつけると、また読み違えます。
だから、憎しみの強さだけを見ていると、話の形を読み違えます。その燃料が何のために注がれているのかまで含めて見ておくと、同じニュースの見え方が変わってきます。
終わり方にも、名前がついています。
戦いを止めることを停戦(ていせん)、争いを正式に終わらせて関係を結び直すことを講和(こうわ)と呼びます。止めることと、終わらせることは、別の段階です。
始めないための仕組みも、いくつかあります。
国どうしで売り買いのつながりを深くしておくこと。壊れたときに失うものが増えるからです。約束を結んで、味方を作っておくこと。そして、自分たちの持っているものや考えを、ある程度は公開しておくこと。
並べてみると、さっきの3つに、ひとつずつ対応しているのがわかります。失うものを増やす。約束の重みを増やす。読み違えを減らす。
ひとつだけ、事実を書いておきます。
日本の憲法には、戦争についての決まりがあります。
それをどう読むか、変えるべきかどうかは、大きく意見が分かれます。ここには立ち入りません。条文そのものは公開されているので、読んでみたい人は、そのまま読めます。
この回の周りには、答えの出ていない論点が並んでいます。
どの国の言い分が正しいのか。どう備えるべきなのか。憲法をどう読むのか。国際機関はうまく働いているのか。
ここには、立ち入りません。この連載では、いま起きているできごとや、特定の国や、特定の人の名前を出して、良い悪いを言うこともしません。
仕組みを説明するところまでが、わたしの仕事です。どう考えるかは、あなたの主導権のほうにあります。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
どちらが正しいかは、決めなくていいです。想像するだけでいいです。今日はそれで十分です。
わたしも、この記事を書きながら、やってみました。やるまでは、遠いところで起きている、わけのわからないことでした。やったあとは、わけがわからないのではなくて、こちらが見ていないものがあるんだな、と、ちょっとだけ距離が変わってきます。
前回。信じることの仕組みを開けました。
主権の話は、この回で書きました。
決め方そのものは、ここです。
連載の棚はこちら。
この回で育てる力:知性(副:関係性)
まだ開けていない箱は、いくつも残っています。次に開けるものが決まったら、お知らせします。
この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。
AIのサポートを受けながら、私のアイデアと考えを体系化した作品集です。