引き出しの奥に、パスポートがある人はいますか。
無い人は、お札でもいいです。健康保険証でも、免許証でもかまいません。
そこに、国の名前が印刷されています。
自分で選んで入った覚えはないのに、生まれたときから、ずっとその名前のついた箱の中にいます。今日は、その箱の話です。
第9回「その一票は、どこへ運ばれて、何に変わるのか」(別タブで開く)では、決め方のほうを書きました。一票がどこへ運ばれて、何に変わるのか。今日は、決め方ではなく、箱そのものの中身を開けます。
国と呼ばれるためには、3つがそろっている必要がある、という説明が広く使われています。
領土(りょうど・その国の土地と、まわりの海や空)。
国民(こくみん・その国に属している人)。
主権(しゅけん・よそから命令されずに、自分たちのことを自分たちで決められる力)。
このうち、あとの話にいちばん効いてくるのが主権です。よそから命令されない、ということは、上に立って命令してくる人がいない、ということでもあります。ここは覚えておいてください。第17回で、もう一度出てきます。
国民かどうかを決めているのが、国籍(こくせき)です。日本では、生まれたときの親の国籍によって決まるのが基本だと説明されています。
もちろん、あとから変わることもあります。国籍を変えるための手続きも用意されています。ただ、出発点のほうは、自分が選ぶ前のところに置かれています。
つまり、、、ほとんどの人にとって、国との関係は、自分が選ぶ前から始まっています。
第9回で、決め方には国とまちの二手がある、と書きました。今日は、それを横ではなく縦に見ます。
いちばん上に、憲法(けんぽう・国のいちばん基本の決まり)があります。その下に、法律(ほうりつ・国会で決められる決まり)。その下に、条例(じょうれい・都道府県や市区町村が、その地域について決める決まり)。
下にあるものは、上にあるものに反することができない、という形になっています。
そして、ここがよく知られていないところです。憲法は、国民を縛るためのものというより、国の側のやることに枠をはめる決まりだと説明されています。
だから、条文には「国はこれをしてはいけない」という形の文がたくさん入っています。箱の中にいる人を縛る鎖ではなくて、箱そのものの設計図ですね。
第4回「その税金は、どこへ歩いていったのか」(別タブで開く)で、集めたお金の行き先を追いました。あの先にあるのが、ここです。
道路。警察。消防。裁判所。ごみと上下水道。教育(第8回)。年金や医療といった社会保障(第5回)。お金の発行の土台(第10回)。そして、防衛。
並べてみると、どれも、ひとりでは買えないものです。自分の家の前だけ警察を雇う、というわけにはいきません。だから、みんなで出し合って、まとめて買っている。第12講「社会は、どんな仕組みで回っているのか」(別タブで開く)に書いた、割り勘の会費です。
もうひとつ、この棚のものには共通の性質があります。自分だけ払わないでおいても、道路は歩けますし、火事になれば消防車は来ます。使った人からだけ代金をもらう、という売り方が成り立たないんですね。だから、先に集めておいて、まとめて買う形になっています。税金という集め方が選ばれている理由の、ひとつがここです。
国が何をしてくれるのか、という問いの答えは、だいたいこの棚の中にあります。
同じくらい大事なのが、こちらです。
何を仕事にするか。どこに住むか。誰と付き合うか。何を信じるか。何を面白いと思うか。
ここは、国が決めない側に置かれています。決めないことが、決めてある、という言い方ができます。憲法には、その「決めない」の並びが書かれています。
ここで言う「決めない」は、放っておく、という意味ではありません。他の誰かに勝手に決めさせない、という意味も入っています。だから、決めないことのほうが、わざわざ文字にして残してあるわけですね。
このうち「何を信じるか」については、そこだけで一回ぶんの仕組みがあります。次回にまわします。
第6回「その会社は、誰のお金で動いているのか」(別タブで開く)で、会社には3つの席がある、と書きました。出資する席、経営する席、働く席。
公務員(こうむいん)は、この「働く席」の国版だと考えると、わかりやすくなります。市役所の窓口の人、学校の先生、警察官、消防士。
違うのは、給料の出どころです。会社なら売上から出ますが、こちらは税金から出ます。だから、何にいくら使ったかが公開される仕組みになっています。第4回で書いたとおり、行き先は公開されている、というのはここにもつながります。
もうひとつ、あまり習わないところを。
国も、お金を借りています。借りるときに出す証書が、国債(こくさい・国が借り入れのときに発行する証書)です。
第12回「その"増やす話"は、誰のお金を、誰に回しているのか」(別タブで開く)で、債券は貸したことを証明する券だと書きました。国の場合が、これにあたります。買っているのは、金融機関や、個人です。つまり、第12回で書いた通り道が、ここにもつながっています。
いくら借りているか、それが多すぎるのかどうかは、ここには書きません。金額は毎年変わりますし、評価は分かれます。知りたいときは「国債発行残高」で調べると、財務省の資料が出てきます。
国の話には、大きな議論がいくつも並んでいます。
国の借りているお金をどう考えるか。防衛をどうするか。国籍や、外から来た人の扱いをどうするか。憲法をどう読み、変えるかどうか。
ここには、立ち入りません。どれも、真面目な言い分が複数あります。
仕組みを説明するところまでが、わたしの仕事です。どう考えるかは、あなたの主導権のほうにあります。
いつもどおり、最後にひとつだけお願いをします。ひとつだけです。
探すだけでいいです。今日はそれで十分です。
わたしも、この記事を書きながら、引き出しから一枚出して眺めました。眺めるまでは、ただの身分証でした。眺めたあとは、これは箱の中にいる印なんだな、と、ちょっとだけ見え方が変わってきます。
前回。家族という、いちばん近い組を開けました。
決め方のほうは、この回で書きました。
集めたお金の行き先は、ここです。
会社の3つの席は、この回で。
債券と通り道の話は、ここに書いてあります。
連載の棚はこちら。
この回で育てる力:知性(副:お金)
次回は、お寺も神社も教会も、法律の上では同じ"箱"です。
この連載の土台:仕組みには、作った側の目的や意図があります。作られた側からは、それが見えにくい。だから、知らなかったのは、あなたのせいじゃない。習ってないだけです。
秋元進吾でした。
AIのサポートを受けながら、私のアイデアと考えを体系化した作品集です。