「歯医者はもういいよ」と言う母へ。歯医者さんのほうから来てくれる「訪問歯科」があります


こんにちは。秋元進吾です。今日は、通院が難しくなったご家族の「歯」のことで迷っている方に向けて、そっとお届けします。

久しぶりに実家でいっしょにごはんを食べたとき、こんな場面はなかったでしょうか。

お母さんが、硬いおかずをそっと残している。「入れ歯が合わなくてね」と笑うけれど、食べる量が前より減っている。歯医者に行こうよと言うと、「あそこの階段がしんどいのよ。歯医者はもういいよ」・・・その「もういいよ」を、そのままにしていいのかな、とモヤッとする。

実は、歯医者さんのほうから家に来てくれる「訪問歯科診療」という仕組みがあります。往診カバンだけの簡易なものではなく、持ち運びできる診療機材を積んで、虫歯の治療も入れ歯の調整もしてくれる、健康保険がきく、れっきとした医療でした。私も調べていて「そこまでできるのか」と驚くことが多かったので、頼む側の目線で、順番にご案内させてください。

このガイドは、専門家ぶるための記事ではありません。かつての、何も分からなかった自分に渡したかった予習ノートを、そのままお裾分けします。


訪問歯科とは・・・「家が歯医者さんになる」仕組みです

訪問歯科診療とは、通院が難しい方のご自宅や施設に、歯科医師や歯科衛生士(口のケアの専門職)が出向いて、診療やケアを行うサービスのことです。

「家でできることなんて、たかが知れているのでは」と思われるかもしれません。私も最初はそう思っていました。でも、ポータブルの診療ユニットやレントゲンを持ち込むことで、外来にかなり近いことまでできるとされています。たとえば、こんなことです。

そしてもうひとつ、知っておいてほしいことがあります。口の中を清潔に保つケアが、誤嚥性肺炎(食べ物や唾液が誤って気管に入り、細菌が肺に届いて起きる肺炎)の予防につながる可能性がある、と研究で報告されている点です。高齢の方の肺炎では、この誤嚥性のものが大きな割合を占めるとされています。もちろん、口腔ケアをすれば肺炎にならない、と断定できるものではありません。それでも「歯の治療」だけでなく「食べる・飲み込む・肺を守る」につながる入口として、訪問歯科は位置づけられています。

入れ歯が合うようになって食事の量が戻る。口の中がさっぱりして表情が明るくなる。訪問歯科の現場では、そんな変化が語られることが多いようです。


対象になる人と、距離のルール〔要確認〕

ここは大事なところなので、先にお伝えします。訪問歯科は「呼べば誰でも来てもらえる出前」ではなく、対象が決まっています。

対象になるのは、通院が困難な方です〔要確認〕。たとえば、寝たきりの方、足腰が弱って一人では外出できない方、認知症で通院が難しい方、障害のある方などが想定されています。要介護認定を受けているかどうかは、必ずしも条件ではないとされていますが、「通院できるのに、便利だから来てほしい」という場合は対象外です。このあたりの線引きは、申し込みのときに歯科医院側が確認してくれます。

もうひとつ、距離のルールがあります。保険を使った訪問診療は、その歯科医院からおおむね半径16km以内で行う、と決められています〔要確認〕。これを超えると、特別な事情がある場合を除いて保険がきかなくなるため、実際には「家や施設の近くの歯科医院に頼む」のが基本になります。遠くの有名な先生より、まず地域の先生。そう覚えておくとスムーズです。

訪問先は、ご自宅のほか、老人ホームなどの施設も対象になります。ただし施設の場合は、すでに提携している歯科医院があることも多いので、まず施設の相談員さんに聞いてみてください。


費用の目安・・・医療保険と介護保険の「合わせ技」です〔要確認〕

いちばん気になる、お金の話です。

先にお断りしておくと、金額そのものに絶対の正解はありません。治療の内容、入れ歯を作るかどうか、ご本人の保険の負担割合(1割から3割)で変わるからです。ここでは「仕組みと目安の幅」としてお伝えします。

訪問歯科の費用は、大きく2つの保険から成り立っています〔要確認〕。

  1. 医療保険・・・診療そのもの(治療・入れ歯・訪問して診ること)にかかる部分。自己負担は通院のときと同じ1割から3割です。1割負担の方で、1回あたりおおむね1,500円から3,000円ほどが目安とされることが多いようです〔要確認〕。入れ歯を新しく作るなど、内容によってはこれに費用が加わります
  2. 介護保険・・・要介護認定を受けている方に、歯科医師や歯科衛生士が管理・指導を行う部分(「居宅療養管理指導」と呼ばれます)。1割負担の場合、歯科医師によるものが1回500円台で月2回まで、歯科衛生士によるものが1回300円台で月4回まで、が目安とされています〔要確認〕。この部分は、介護保険の利用限度額とは別枠で扱われるとされているので、他の介護サービスを圧迫しにくいのも安心材料です〔要確認〕

「保険が2つも出てきて、ややこしい」と感じたら、覚えるのはこれだけで大丈夫です。訪問歯科は原則、保険の範囲でできる医療で、窓口負担は通院とけた違いにはならない。交通費は無料としている歯科医院が多いようですが、扱いは医院ごとに違うので、最初に確認してください〔要確認〕。

そして、金額を見るときのコツは街の修理や工事と同じです。「一式いくら」で受け取らず、医療保険の分・介護保険の分・入れ歯などの実費を分けて、先に説明してもらうこと。良い歯科医院ほど、この説明をいやがりません。


良い訪問歯科の見分け方・5つ

家に上がってもらう相手だからこそ、選ぶときの目線を持っておくと安心です。難しい知識はいりません。次の5つを、電話や初回のやりとりで見てください。

  1. 「通院が難しい状態か」を、最初にきちんと確認してくれるか。条件を確かめずに「誰でもすぐ伺います」と言う相手より、入口が丁寧な相手のほうが信頼できます
  2. 費用の説明が、医療保険・介護保険・実費に分けて明朗か。「だいたい全部で」とぼかさず、負担割合に応じた目安を先に示してくれるか
  3. 治療だけでなく、口腔ケアや飲み込みの相談まで見てくれる体制か。歯科衛生士さんが関わってくれるかは、続けやすさに直結します
  4. ケアマネジャーや主治医と連携してくれるか。診療の内容をご家族や介護のチームに報告してくれる歯科は、それだけで安心感が違います
  5. 体調の波に合わせた予定変更に、快く応じてくれるか。当日の発熱などでの変更を責めない姿勢があるか

全部が満点でなくても大丈夫です。でも、「この治療をしないと大変なことになる」と不安をあおったり、最初から高額な自費治療ばかり勧めてきたりする相手は、いったん距離を置いていい合図だと思ってください。


頼み方は、たった3ステップ

では、実際にどう動けばいいのか。入口はとてもシンプルです。

  1. まず、これまで通っていたかかりつけの歯科医院に電話して、「通院が難しくなったのですが、訪問はされていますか」と聞く。口の中の経過を知っている先生に続けて診てもらえるのが、いちばん自然な形です
  2. かかりつけがない、または訪問をやっていない場合は、担当のケアマネジャー(介護の計画を立てる専門職)か、地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口)に「訪問歯科を探している」と伝える。地域で実績のある歯科医院を教えてもらえることが多いです
  3. それでも見つからなければ、お住まいの地域の歯科医師会に相談する。在宅歯科の相談窓口を設けている地域が多く、市区町村の高齢者福祉の窓口でも案内してもらえます〔要確認〕

初回はできればご家族が同席して、治療の方針と費用の説明を一緒に聞いてください。「どこまで治すか」は、ご本人の体力や生活に合わせて決めていくものなので、家族の耳がひとつ増えるだけで、あとの安心感がまったく違います。


まとめ・・・「もういいよ」の奥にあるもの

長くなりました。最後に、これだけ持って帰ってください。

「歯医者はもういいよ」は、歯がどうでもいいという意味ではありません。通うのがしんどい、付き添わせるのが申し訳ない。その気持ちが、あきらめの言葉になっているだけかもしれません。口は、食べる・話す・笑う、その全部の入口です。家にいながら診てもらえる道がある、と知るだけでも、気持ちは少し軽くなります。

今日の1アクションは、これだけです。

次に実家に電話するとき、「入れ歯、合ってる?」と聞いてみませんか。そして気になる答えが返ってきたら、かかりつけの歯医者さんかケアマネジャーさんに、「訪問歯科って、うちでも使えますか?」と聞いてみる。合わなければ、やめればいいだけです。まずは選択肢があることを、ご本人に、そっと届けてあげてください。

それでは、また。あなたのご家族の毎日が、少しでもおいしくなりますように。


【免責事項】
本記事は、訪問歯科診療の利用を検討するご家族・ご本人が判断材料を得るための、一般的な情報提供を目的としています。記載内容は執筆時点の情報に基づくもので、料金・自己負担・医療保険・介護保険(居宅療養管理指導)の運用・対象範囲・距離の取り扱いは、地域や時期、制度改定、ご本人の条件によって変わります。本記事は特定の治療効果や誤嚥性肺炎の予防効果を保証するものではなく、特定の歯科医院・事業者を推奨するものでもありません。実際にご利用の際は、かかりつけの歯科医師・主治医・担当ケアマネジャー、およびお住まいの自治体や保険者に必ずご確認のうえ、ご自身の判断と責任でお決めください。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、著者は責任を負いかねます。

【出典】

著者:秋元進吾