公開日: 2026-08-10

地図は1枚じゃない

更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました

クイズ:あなたの仕事の、正式な名前は

あなたが高校生になって、コンビニでバイトを始めたとします。

さて、国の帳簿の上で、あなたの仕事は何と呼ばれるでしょうか。

答えは、2つあります。

国勢調査(こくせいちょうさ→5年に1度、国が全員に行う調査)の集計では、あなたは「販売店員」です。

ハローワーク(国の職業紹介所)の求人票では、あなたは「コンビニエンスストア店員」です。

同じ仕事に、2つの正式名称。まちがいではありません。国は、職業の地図を2枚持っているんです。


2枚の地図の正体

1枚目は、総務省の「日本標準職業分類」。国勢調査などの統計をとるための地図です。大分類12、中分類74、小分類329。

2枚目は、厚生労働省の「厚生労働省編職業分類」。ハローワークで、仕事を探す人と求人を出会わせるための地図です。大分類15、中分類99、小分類440。

同じ国の、同じ職業を数えているのに、項目の数がちがう。名前もちがう。

いちばん分かりやすいのが、「売る人」です。

総務省の地図では、お店で売る仕事は「販売店員」・・・たった1項目です。

ハローワークの地図では、同じ範囲が16項目に分かれています。コンビニエンスストア店員。携帯電話販売店員。ガソリンスタンド店員。化粧品販売店員。衣料品販売店員。レジ係。まだあります。

左の大きな荷札から紐が16本扇形に広がり、右の小さな荷札のうち6枚だけに絵記号が付く。

なぜ、こんなことになっているんでしょう。


目的がちがうから、地図がちがう

答えは、地図の"使いみち"にあります。

統計の地図は、くらべるための地図です。10年前と今をくらべる。日本と外国をくらべる。そのためには、項目が細かすぎては数えられないし、ころころ変わっては比較できません。だから、粗く、安定してつくられています。

ハローワークの地図は、出会わせるための地図です。「コンビニで働きたい人」と「コンビニの求人」を結ぶには、「販売店員」ではざっくりすぎます。だから、細かく、今の言葉で、時代に合わせて引き直されます。

実際、ハローワークの地図は令和4年に大きく引き直されました。大分類が11本から15本になり、「医療・看護・保健」「保育・教育」「福祉・介護」が、それぞれ独立した柱として立ちました。

柱が新しく立つのは、そこへ人が動いているからです。求人が増え、働く人が増え、細かく分けないと出会わせられなくなった。地図は、世の中を映す鏡でもあるんですね。

どちらの地図が正しいか、という問いには意味がありません。目的がちがえば、正しい地図もちがう。それだけのことです。


ここからが、本題

さて。ここまでは職業の話でした。でも、この回でほんとうに伝えたいのは、その先です。

分類というのは、自然にそこにあるものではありません。だれかが、何かの目的のために引いた線です。

図書館の本の並び方。あれは「探しやすくする」という目的のために、百年以上前に考えられた分け方です。

学校の科目。国語と数学と理科の境界線は、自然界には存在しません。「教えやすく、学びやすくする」ために引かれた線です。

音楽アプリのジャンル分け。コンビニの棚の分け方。ぜんぶ、目的があって引かれた線です。

そして、線には引いた人がいて、目的があるということは・・・目的が変われば、引き直せるということです。

現にハローワークの地図は引き直されました。あなたが自分の将来を考えるときも、同じです。だれかが引いた線に沿って考えてもいいし、自分の目的に合わせて、自分の線を引き直してもいい。

この連載の後半・・・コンパス編でやるのは、まさにそれです。国の地図をながめたあと、自分用の線を引く。そのための道具を、これから渡していきます。

生成りの区画図の上で、消しゴムを持つ手が線を消し、その少し横で鉛筆を持つ手が新しい線を引き直している。

地図に、まだ載っていない仕事

もうひとつだけ。

地図は、世の中を映す鏡だと言いました。ということは、鏡に映るまでには、少し時間がかかります。

動画をつくって生活する人・・・いわゆるYouTuberという働き方は、生まれてからしばらく、国の地図のどこに置くか定まっていませんでした。新しい仕事は、いつも地図の外側で先に生まれて、あとから地図に描き足されます。

つまり、いま地図に載っている仕事がすべてではありません。あなたが将来やる仕事は、まだ地図にない可能性がある。この話は、第10回のAIの回で、正面からやります。

塗られた地図の外の余白にある線画の家へ、手がペンで道を描き足している。

数字の窓

2枚の地図の大きさを、並べておきます。

同じ国の職業を数えて、この差。分類は目的で決まる、の何よりの証拠です。

(総務省・厚生労働省の各分類項目表より)


資料室のお知らせ

この2枚の地図、それから会社の商売を分けた「日本標準産業分類」を、全項目そのまま一覧にした資料をつくりました。壁に貼れるA3のPDFと、スマホで検索できるHTML版があります。件数は国の公式資料と突き合わせて確認済み。学校や塾で、そのまま使ってもらってかまいません。

→ 資料室をひらく(無料ダウンロード)


ことばの言いかえ


今日の1つ

資料室の検索用一覧を開いて、身近な仕事をひとつ、2枚の地図の両方で探してみてください。家族の仕事でもいいし、なりたい仕事でもいいです。

総務省の地図での名前と、ハローワークの地図での名前。同じでしたか、ちがいましたか。ちがっていたら、なぜこう分けたんだろうと、1分だけ考えてみてください。その1分が、この回のぜんぶです。


次回から、第2部

地図編は、ここまでです。仕事を見わける物差しと、地図の読み方は、そろいました。

第2部は、お金の話です。といっても、もうけ方のテクニックではありません。「そのお金は、そもそもどこから来たのか」という、根っこの話です。

最初の問いはこれです。学校の先生と、会社員と、NPO(民間の非営利団体)で働く人。この3人の給料は、それぞれどこから来ているでしょうか。

→ 第6回 お金の3つの世界