公開日: 2026-08-10
更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました
序章で、おにぎりを田んぼまでさかのぼりました。あれはモノの旅でした。
今日は、逆向きの旅をします。あなたがレジで払った130円の旅です。
130円は、レジのお金入れに入って、おしまい・・・ではありません。むしろ、あそこがスタート地点です。
世の中のモノの流れは、1本の川にたとえられます。
川上(かわかみ)。素材が生まれる場所。田んぼ、海、山、鉱山。
川中(かわなか)。素材が形になる場所。工場、そして卸(まとめて仕入れてふり分ける問屋さん)。
川下(かわしも)。お客と出会う場所。コンビニ、スーパー、飲食店。
おにぎりは、川上から川下へ流れてきました。米が工場へ、工場から店へ、店からあなたの手へ。
そして、お金は逆向きに流れます。あなたの130円は、店から本部へ、卸へ、工場へ、そして農家や漁師さんへと、川をさかのぼっていきます。

ただし、そのまままるごと届くわけではありません。ここが今日の核心です。
130円は、川をさかのぼる途中、各持ち場で少しずつ取り分けられます。
店は取り分をもらいます。「家の近くで、夜中でも買える」という価値を加えたからです。
運んだ会社も取り分をもらいます。「工場と店のあいだの距離を消した」からです。
工場も取り分をもらいます。「米と具と海苔を、片手で食べられる形にした」からです。
そして、いちばん川上の農家にも届きます。「そもそもの素材を生んだ」ぶんです。

つまり、130円という値段は、川ぞいのみんなが加えた価値の合計です。だれかがズルをして高くしているのではなく(そういうことも世の中にはありますが)、基本の形は、価値の積み上げです。
逆に言うと、自分の持ち場で「何の価値を加えているのか」を言えることが、働くうえでものすごく大事になります。加えた価値のぶんしか、取り分はないからです。
ここで、前回の3つの世界と、この川がつながります。
あなたがコンビニでバイトをしたら、時給をもらいます。そのお金の出どころは、店が川から取り分けた水・・・つまり、お客たちが払った130円の集まりです。
給料は、空から降ってくるものでも、社長のポケットから出るものでもありません。川の分け前です。
だから、こういうことが起こります。会社が川から汲める水の量(売上)が少なければ、どんなに頑張っても、配れる分け前には上限がある。逆に、水量の多い川のそばにいる会社は、分け前も大きくなりやすい。
「同じ仕事なのに、業界によって給料がちがう」という、大人がよく話している現象の正体は、これです。くわしくは第9回でやります。
なお、税金の川(第6回のお役所の世界)も、公共事業という合流点で、この川に流れ込んでいましたね。世の中のお金は、何本もの川が合流しながら、ぐるぐる巡っています。中学公民の「経済の循環」の図は、この川の全体図です。
私たちが食べ物に払うお金のうち、農家や漁師さんの素材そのものに払われているのは、およそ2割です。
残りのおよそ8割は、加工・流通・外食など、川の途中で加えられた価値に払われています。
(農林水産省の産業連関表にもとづく試算より)
「たった2割?」と思うか、「川の途中に、それだけの仕事があるのか」と思うか。この連載を序章から読んできたみなさんなら、たぶん後者の見え方ができるはずです。8割の中に、運ぶ人、にぎる機械を直す人、パッケージを考える人・・・あの旅の全員がいます。
家や学校のまわりで、川下・川中・川上の場所を1つずつ探してみてください。
川下はすぐ見つかります。コンビニ、スーパー、パン屋さん。
川中は、少しむずかしい。工場、倉庫、問屋さん。幹線道路ぞいや駅の裏手にあることが多いです。
川上は、住んでいる場所によっては見つかりません。それでいいんです。見つからなかったら、「なぜ自分の町には川上がないんだろう」を考えてみてください。町ごとに、川のどのあたりを受け持っているかがちがう・・・それが見えたら、今日は大成功です。
川の流れが見えたら、次は1つのモノの"一生"を最初から最後まで見届けます。
題材は、家です。1軒の家が建って、住まれて、直されて、最後に取り壊されるまで。そこに何人の仕事が通り過ぎるか。おにぎりの旅より、ずっと長くて濃い行進です。