公開日: 2026-08-10

仕事の一生

更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました

通学路の空き地に、囲いができた

通学路の空き地に、ある日、白い囲いができます。

次の週、地面が掘られて、コンクリートが流されます。そのまた次の週、木の柱が立ちはじめて、気づけば骨組みができている。屋根がのって、壁がはられて、数か月後、そこは家になっています。

毎日ちょっとずつ変わっていく現場を、定点観測したことはありませんか。あれは、仕事の行進です。今日は、あの囲いの中で何が起きているのかを、最初から最後まで見届けます。

柵に囲まれた空き地が、基礎、木の骨組み、屋根のある家へと4コマで変わり、どのコマも手前の道を同じ人が歩いている。

生む:家が建つまでの行進

囲いができる前から、行進は始まっています。

まず、土地。売り主と買い主のあいだに不動産屋さん(つなぐ役)が立ち、土地の持ち主が変わったことを国の帳簿に記す登記(とうき)を、司法書士さんが行います。

設計士さんが図面を描きます。その図面が安全のルールに合っているか、役所が確認します・・・第6回の"お役所の世界"が、ここで登場します。家1軒にも、3つの世界が全部からんでくるんです。銀行がローン(長い分割払いの貸付)を組み、保険屋さんが万一に備える。お金の世界も、もう来ています。

そして、囲いの中の行進です。

地面を固めて基礎をつくる人。骨組みを立てる大工さん。屋根をふく人。壁の中に電気の線を通す人。水道の管をつなぐ配管の人。壁を塗る左官(さかん)さん。窓を入れる人。床と壁紙をはる内装の人。

ひとつの現場に、入れかわり立ちかわり、何十種類もの職人さんが通り過ぎます。しかも順番が決まっています。電気の線は、壁がはられる前にしか通せない。行進の順番を組み立てて、全体を指揮する人・・・現場監督がいて、はじめて家は建ちます。

測量や大工など道具を持つ職人たちが1列に並び、建ちかけの家へ向かって行進している。

最後に、検査です。図面どおりにできているか、安全か。確かめる人が入って、合格して、鍵が引き渡されます。

ここまでで、だいたい1年。でも、家の一生から見れば、これはまだ序章です。

(この行進に出てくる職人の仕事をくわしく知りたい人へ・・・このサイトには職人さんの資料室という部屋があります)


モノの一生は、5段階ある

家に住みはじめてからのほうが、ずっと長い。ここからは、一生を5つの段階で見ます。

生む。いま見てきた行進です。

使う。住む。家の一生でいちばん長い時間。30年、50年。

守る。使い続けるための仕事です。外壁の塗り直し、水まわりの修理、リフォーム、掃除、シロアリの点検。建てるのは1年ですが、守る仕事は50年続きます。

確かめる。ちゃんと使える状態か、安全かを調べる仕事。定期点検、耐震(地震への強さ)の診断。守ると確かめるは、地味に見えて、実は途切れない仕事です。

終わらせる。だれも住まなくなった家を、解体して、出てきた木材やコンクリートを分別して、処理して、土地を更地に戻す。ここまでやって、家の一生は終わります。

建築中の家、住んでいる家、解体中の家が並び、下段で外壁を塗る人と床下を点検する人が働く。

この5段階、家だけの話ではありません。服も、スマホも、車も、道路も、ぜんぶ同じです。つくって終わりのモノは、世の中にひとつもない。そして、5段階の全部に、仕事があります。


「終わらせる仕事」の話

5段階の中で、いちばん光が当たらないのが、終わらせる仕事です。

解体の仕事。廃棄物を集めて、分別して、処理する仕事。使い終わったものをリサイクルに回す仕事。

商品に名前は残らないし、CMにも出てきません。でも、想像してみてください。この仕事が1か月止まった町を。ゴミが積み上がり、危ない空き家がそのまま残り、新しいものを建てる場所も生まれません。

終わらせる仕事は、次の「生む」のための場所をつくる仕事でもあるんです。第3回の言い方を借りれば、典型的な"痛み止め型"。なくなると、みんなが困る仕事です。


数字の窓

日本の空き家は、およそ900万戸。住宅のおよそ7軒に1軒が、空き家です。

(総務省「住宅・土地統計調査」令和5年)

この数字が意味することは、はっきりしています。これからの日本で出番が増えるのは、「生む」だけではなく、「守る・直す・活かす・終わらせる」の側の仕事だ、ということです。

新しく建てる腕も、直して長く使わせる腕も、きちんと終わらせる腕も、ぜんぶ必要とされる時代。家の5段階のどこに立つか・・・これも、地図の読み方のひとつです。


ことばの言いかえ


今日の1つ

身の回りのモノをひとつ選んで、一生の5段階を書き出してみてください。

たとえばスニーカー。生む(工場でつくる)、使う(履く)、守る(洗う、ひもを替える)、確かめる(すり減りを見る)、終わらせる(・・・だれが、どうやって?)。

最後の「終わらせる」で手が止まったら、それが今日の発見です。自分の持ち物の最期を、自分は意外と知らない。その先を調べてみると、知らなかった仕事に必ずぶつかります。


次回

家1軒の行進には、大工さんも、設計士さんも、現場監督もいました。ところで、あの人たちの給料は、それぞれいくらなんでしょう。そして、その差は、何で決まっているんでしょう。

頑張り? 才能? やさしさ?

どれでもありません。次回は、給料の決まり方の話。この連載でいちばん、大人が読んでも耳が痛いかもしれない回です。

→ 第9回 給料はどうやって決まるのか