公開日: 2026-08-10

株の世界から見る仕事の地図

更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました

先にお断りしておきます。この記事は、投資のすすめではありません。地図の話です。

「銀行株が買われ」の、あのグループ分け

夕方のニュースの株式コーナーで、こんな言い回しを聞いたことがあると思います。

「今日の東京株式市場は、銀行株が買われ、半導体関連が売られる展開でした」

銀行"株"。半導体"関連"。会社の名前ではなく、グループの名前で語られています。あのグループ分け、いったいだれが決めているんでしょう。

答えは、東京証券取引所です。上場会社(株式市場に参加している会社)を、33の業種に分けています。通称、東証33業種。

連載の第5回で、国は職業の地図を2枚持っている、という話をしました。実は世の中には、3枚目の地図もあったんです。


33業種の全リスト

例によって、はしょらず全部載せます。

系統業種
川上(素材・資源)水産・農林業/鉱業/石油・石炭製品/鉄鋼/非鉄金属/化学/ガラス・土石製品/パルプ・紙
川中(つくる)建設業/食料品/繊維製品/医薬品/ゴム製品/金属製品/機械/電気機器/輸送用機器/精密機器/その他製品
川下・暮らし電気・ガス業/陸運業/海運業/空運業/倉庫・運輸関連業/情報・通信業/卸売業/小売業/サービス業
お金の世界銀行業/証券、商品先物取引業/保険業/その他金融業/不動産業

(系統分けは、この連載の川の考え方に合わせた本記事独自の整理です。正式な33業種は右の列の名前だけで、順不同の一覧として定められています)


なぜ、製造業だけ16本に割れているのか

ここからが、この記事の本題です。総務省の産業分類の地図と、見くらべてみてください。

総務省の地図(大分類20)では、製造業は「E 製造業」の1本でした。中に24の中分類がぶら下がる形です。

東証33業種では、製造業にあたるものだけで、食料品から精密機器まで16本もあります。

逆に、総務省の地図では細かく分かれていたサービス系(生活関連、教育、医療・福祉など)は、33業種ではざっくりまとめられています。

なぜか。もう、答えられますよね。目的がちがうからです。

投資家がこの地図を使う目的は、同じ土俵の会社どうしを比べることです。化学の会社と医薬品の会社は、素材も、お客も、川も、給料の重力も、まるで別の商売です。「同じ製造業」とひとまとめにしたら、比べものになりません。だから細かく割る。

一方、上場会社が少ない分野は、細かく割っても比べる相手がいないので、まとめてしまう。

第5回で見た「分類は目的で決まる」の、3枚目の証拠です。統計の地図、仕事探しの地図、そして投資の地図。同じ日本の仕事を描いて、3枚とも切り分けがちがう。

同じ川と工場と家並みの地図が3枚並び、境界線が1枚目は粗く、2枚目は全体に細かく、3枚目は工場の区画だけが細かい。

川で読むと、ニュースが読める

33業種の表を、川の順に並べたのには理由があります。

景気の波は、川を伝わるからです。

たとえば、世の中でモノが売れなくなると、まず川下の小売の売上が細ります。すると小売は仕入れを減らし、川中の工場の注文が減り、工場は材料を減らし、川上の素材の会社にまで波が届く。逆に、景気がよくなる波も、川を伝わって広がります。

川沿いの田んぼ、工場、お店それぞれの前の水面に波紋が立ち、川下ほど輪が大きく広がっている。

株式市場では、この川の伝わりが、毎日、値段になって観察されています。「銀行株が買われ、半導体関連が売られ」というニュースは、川のどこにお金が集まり、どこから引いているかの実況中継なんです。

連載の道具だけで、大人のニュースがここまで読める。地図とは、そういうものです。


「お金に働いてもらう」立場から見ると

第2回で、働き方の4つの立場のうち、4つめに「お金に働いてもらう」・・・投資の立場がある、と言いました。

株を買うというのは、その会社の柱を、お金で一緒に支える立場になることです。会社が川から汲んだ水の分け前(配当といいます)を受け取ったり、会社の値打ちが上がれば株の値段も上がったりする。もちろん、その逆もあります。川が細れば、分け前も株の値段も細る。

これは、大人になってから出会う地図です。いま覚えることはひとつだけでいいと思います。株式市場は、ギャンブルの場である前に、この連載で見てきた"仕事の地図"そのものを、お金の面から毎日映している鏡だ、ということです。


数字の窓

東京証券取引所に上場している会社は、およそ3,900社です。

(日本取引所グループ)

第1回の数字を思い出してください。日本の会社の99.7%は中小企業でした。つまり、株式市場に並んでいるのは、日本の会社の地図の、ほんの一角です。ただし、その一角には大きな川が集まっていて、働く人の数でも売上でも、日本経済のかなりの部分を動かしています。一角だけど、小さくはない。両方とも本当です。


ことばの言いかえ


今日の1つ

今夜か明日、ニュースの株式コーナーを1分だけ見てください(動画サイトのニュースでもかまいません)。

業種の名前がひとつは出てきます。「〇〇株が買われ」の〇〇です。

それを33業種の表から探して、川のどのあたりかを当ててみてください。当たり外れより、「大人のニュースが、聞き取れる言葉になっていた」こと自体が、今日の収穫です。


この記事は連載「仕事の地図」の番外編です。分類の話は第5回、川の話は第7回、働き方の4つの立場は第2回でくわしく扱っています。

(あらためて。この記事は特定の投資をすすめるものではありません。株式の売買には値下がりをふくむリスクがあります)