公開日: 2026-08-10

地図から、コンパスへ

更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました

もう一度、コンビニへ

この連載の最後のお願いです。もう一度、コンビニに行って、おにぎりを1個買ってきてください。

序章と同じ、130円のおにぎりです。

どうでしょう。あのときと、同じに見えますか。

レジの向こうに、田んぼから続く行進が見える。130円が、これから川をさかのぼっていくのが見える。レジを打ってくれた人の時給が、その川の分け前だと知っている。この店の棚の分け方が、だれかが目的のために引いた線だと知っている。

おにぎりは、1ミリも変わっていません。変わったのは、あなたの目です。

コンビニのカウンターでおにぎりに硬貨を差し出す手があり、窓には田んぼから工場を通って店に届く川の風景が重なって見える。

渡した道具の、棚卸し

13回かけて渡した道具を、一度だけ並べておきます。

使い込まれた地図の上を川が流れ、これまでの図に出た絵記号が周りに散らばり隅にコンパスがある。

地図編では、仕事を1つの文で説明する型と、2階建て11本の軸、そして国が持つ2枚の職業の地図を見ました。分類は目的で決まる・・・線は、引き直せるものでした。

お金編では、3つの水源と、モノとお金が逆向きに流れる川、家1軒でたどったモノの一生5段階、そして給料を決める重力を見ました。給料の高低は、人の価値とは別の話でした。

コンパス編では、仕事をほどく「作業の束」、自分のHowに名前をつける6タイプ、生活の形を決める4つのダイヤルを渡しました。

ぜんぶ、暗記するものではありません。おにぎりの見え方が変わったように、一度手に入れた"見る目"は、忘れようとしても忘れられないものです。


地図に、描けなかったもの

正直に言います。この地図には、いちばん知りたかったかもしれないものが、描いてありません。

あなたの正解ルートです。

描かなかったのではなく、描けないんです。理由は、この連載で全部見てきました。

地図は、古くなります。国でさえ、令和4年に地図を引き直しました。

地図の外側で、新しい仕事が生まれ続けます。あなたが将来つく仕事は、今日の地図にまだ載っていないかもしれません。

そして、現在地と行き先は、地図には書いてありません。それを知っているのは、地図ではなく、あなただけです。

だから、この連載の後半はコンパスの話をしてきました。地図が描き変わっても、自分のHow・・・どう関わると気持ちいいか、という方角さえ持っていれば、迷子にはなりません。


仮決めの、すすめ

それでも、進路の紙は、提出日がやってきます。方角しか分かっていないのに、地名を書けと言われる。

そういうときのための、最後の道具です。仮決め、という考え方。

決められないなら、仮に決めてください。えんぴつで。そして、試せる範囲で試してください。文化祭の役割で、部活で、バイトで、job tagの動画で、家族への取材で。

試して、ちがったら、引き直す。それは失敗ではありません。国の地図でさえそうやって育ってきたことを、あなたはもう知っています。仮決めして動いた人だけが、「ちがった」という一番大事な情報を手に入れられるんです。

動かないまま考え続けても、地図は読めるようになりません。おにぎりの見え方が変わったのは、あなたが13回、読むという行動をしたからです。


数字の窓

いま、日本で働いている人は、およそ6,800万人います。

(総務省「労働力調査」)

この連載で広げてきた地図の上に、6,800万個の点が打たれている、ということです。田んぼに、工場に、レジに、教室に、病院に、工事現場に、画面の向こうに。

あなたの点は、まだ打たれていません。

田んぼや川、町を描いた地図に無数の小さな灯りが散らばり、余白の端に鉛筆を持つ手がそっと近づいている。

どこに打ってもいい。打ち直してもいい。まだ地図にない場所に、最初の点を打つことになるかもしれない。それだけが、この地図の確かな余白です。


この先へ

連載は、ここまでです。でも、地図は使ってこそなので、置き場所を案内しておきます。

資料室には、国の分類を全項目のせた地図(印刷用PDFと検索用HTML)があります。壁に貼るなり、スマホで引くなり、自由に使ってください。学校や塾の先生も、どうぞ。

番外編が2本あります。株の世界から見る3枚目の地図の話と、「AIに仕事は奪われるのか」を落ち着いて考える話。どちらも、この連載を読み終えたあなたなら、ニュースの見え方が変わる読み物です。

そして、job tag。500以上の職業が待っています。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。いつかどこかで、あなたの点が打たれた地図を見られたら、それがこの連載のいちばんの完成です。

(この地図は、読む人の声で育ちます。「ここが分かりにくかった」「この仕事はどこに入るの?」・・・いつでも教えてください)


ことばの言いかえ


今日の1つ

もう一度だけ、おにぎりを買ってください。

そして、レジで130円を払う瞬間に、川を1本、思い浮かべてください。

それができたら、この連載は、あなたの中で完成です。


更新のきろく

2026年8月18日 ファクトチェックを行い、数字の窓を「およそ6,700万人」から「およそ6,800万人」に直しました。総務省「労働力調査」の最新の値で、働く人の数が6,800万人台になっているためです。