更新しました(2026年9月26日) 挿絵を入れました
久しぶりに実家に帰ったとき、こんな景色を見たことはありませんか。

廊下に段ボールが積んである。押し入れを開けると、もう何年も着ていない服がぎゅうぎゅうに詰まっている。「ちょっと片付けたら?」と言ったとたん、お母さんの顔がすっと曇って、「まだ使えるのよ」と返ってくる。
・・・そのあとの、気まずい空気。あれが、いちばんしんどいんですよね。
こんにちは。秋元進吾です。この記事は、実家のようすにモヤッとしながら、どう言えばいいのか分からずにいるご家族のための予習ノートです。私自身、調べるまで知らないことばかりでした。専門家ぶるつもりはありません。
生前整理とは、ご本人が元気なうちに、持ち物・財産・情報を整えておくことです。それをご自宅に伺って手伝うのが、生前整理のサポートという仕事になります。
よく似た言葉に遺品整理がありますが、いちばん大きな違いは、決めるのが誰か、という一点です。
この差が、あとから効いてきます。ご本人が決めた整理には、後悔が生まれにくい。費用の面でも、生前なら計画的に少しずつ進められますが、遺品整理は短期集中になりやすく、まとまった金額になりがちだと言われています。
整理の対象は3つ。物(衣類・家具・思い出の品)、財産(預貯金・保険・不動産の一覧)、情報(大事な書類がどこにあるかを、家族に伝わる形にする)。3つ目が抜けている家が、いちばん多いように思います。

そして生前整理は、片付け代行ではありません。良い担い手ほど、自分の役割を「仕分けの伴走」と言います。決めるのはご本人、こちらは段取りと寄り添いに徹する。ここが揺れない相手を選べるかどうかが、ほぼすべてです。
いちばん難しいのが、たぶんここですよね。
知っておきたいのは、親世代の背景です。手に入れることが豊かさだった時代を生きてきた人にとって、物に囲まれていることは幸せの形そのものでした。「捨てて」の一言が、その人生への否定に聞こえてしまうことがあります。
だから、コツは3つだけです。急かさない。否定しない。目的を「これからの暮らしを軽くすること」に置く。
こんな言い換えが効きます。「片付けたら?」ではなく「この通り道、つまずかない?」。「捨てて」ではなく「どれを残したい?」。終わりではなく、これからに置きかえるだけで、受け取られ方が変わります。
範囲も、小さくしてください。家全体ではなく、引き出し1つ、棚1段。「一度に全部やらなくていいから、今日はここまで一緒にやろう」と言えると、気持ちが軽くなります。最初に手をつけるのは、判断のいらない明らかなごみから。目に見えて片付くと、「自分にもできる」という感覚が戻ってきます。
それでも親子だと、感情が先に立ちます。同じ会話でも、第三者が間に入ると驚くほど穏やかに進むことがあります。頼むのは、投げ出すことではありません。関係を守るための段取りです。
いちばん気になるお金の話です。金額に絶対の正解はありません。物量と、運び出しやすさで大きく変わるからです。ここでは目安の幅としてお伝えします。
頼み方は、大きく二層に分かれます。
一つめが、寄り添い型(時間制)。整理収納や生前整理の資格を持った人が、ご本人と一緒に少しずつ仕分けをしていく形です。スタッフ1名あたり1時間3,000〜5,000円程度が相場帯とされています〔要確認〕。1回3時間から5時間で、15,000〜25,000円ほど。交通費は別途のことが多いです。
二つめが、作業一式型(間取り別)。トラックと人員で、一気に片付けて運び出す形です。目安として1R・1Kでおおむね3万〜8万円、1LDKで7万〜20万円ほど。部屋数が増えるほど上がります〔要確認〕。ただ、金額を本当に左右するのは間取りより物量と搬出条件です。階段作業になるか、トラックを玄関の近くに停められるか。同じ2LDKでも、ここで倍近く変わります。
見積もりのコツは、街の修理や工事と同じです。電話やメールだけの概算で決めず、必ず現地を見てもらう。そして、作業費・処分費・出張費・養生費が項目ごとに分かれているかを見る。「一式◯万円」としか書いていない見積書は、その場で内訳を聞いてください。良い事業者ほど、この質問をいやがりません。
通帳・印鑑・権利書・保険証券・現金・貴金属。この6つについては、「事業者は触れない。見つけたらその場でご本人にお渡しし、記録に残す」というルールがあるかを、最初に確認してください。これを自分の言葉で言える相手は、まず信頼していいと思います。
ご家族の側の準備もあります。大事な書類は、金庫でも書類ケースでもいいので置き場所を1か所に決めて、「どこに何があるか」だけを共有しておく。中身の金額まで聞き出す必要はありません。場所さえ伝わっていれば、いざというときの負担がまったく違います。
写真やアルバムは、いちばん手が止まるところです。全部残すか全部捨てるかの二択にせず、スマホで撮って残す、思い出箱を1箱だけつくる、といった落としどころを先に決めておくと進みます。
そして見落とされがちなのが、デジタルです。スマートフォンのロック、ネット銀行やネット証券、毎月引き落とされ続けるサブスク、SNS。国民生活センターも、スマホの中の見えない契約でご家族が困る例に注意を促しています。ご本人以外が勝手にログインする行為は法律に触れるおそれもあるので〔要確認〕、生前にご本人の意思で整えておくのが安全です。やることは、使っているサービスを紙に書き出し、「残したいか、消したいか」を横に書くだけ。パスワードそのものを事業者に見せる必要はありません。保管場所は、信頼できるご家族にだけ伝えてください。

ここが、頼む側にとっていちばんトラブルの多いところです。
まず、担い手が「買い取ります」と言うには、古物商許可(都道府県公安委員会の許可)が必要とされています〔要確認〕。許可番号を聞いたときに、すっと答えられるかが目安のひとつです。
一方、ご家庭から出るごみを運び出すには、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要とされています〔要確認〕。ここが盲点で、古物商許可や産業廃棄物の許可を持っていても、家庭ごみは運べません。
国民生活センターは、市区町村の許可を受けずに回収を行う事業者について注意を呼びかけています。相談は年2,000件を超えた年もあり、低額をうたいながら作業後に高額を請求された、積み放題プランのはずが荷台の高さで制限をかけられた、といった訴えが目立ちます。巡回してくるトラックのアナウンスや、ポストの無料回収チラシは、その場で決めないでください。
現実的な進め方はこうです。処分は自治体のルールに沿ってご本人・ご家族が出すのを基本にし、量が多いときだけ、市区町村のホームページや窓口で確認できる許可業者に頼む。これで、ほとんどの心配は消えます。
買取にも守りがあります。訪問して買い取る取引は特定商取引法の訪問購入にあたり、書面を受け取ってから8日間はクーリング・オフができ、その間は品物の引き渡しを拒めるとされています〔要確認〕。ご本人がひとりのときには家に上げない。その場で決めない。この2つで、ずいぶん守られます。
もう一本、線引きを。財産を一覧にするところまでは整理の範囲ですが、遺言書の作成や相続の分け方、成年後見といった話は、弁護士・司法書士・行政書士など士業の領域です〔要確認〕。法務局の自筆証書遺言書保管制度(手数料は1通3,900円)でも、遺言の内容の相談には応じられず、内容は専門家へ、と案内されています。整理の担い手が相続の中身にまで踏み込んできたら、それは越境の合図です。
難しい知識はいりません。電話や初回のやりとりで、この5つを見てください。
5つ全部が満点でなくても大丈夫です。でも、ご本人より先に捨てるものを決める・見積もりが一式のまま・許可の質問をはぐらかす。この3つが揃ったら、いったん離れて別をあたっていい合図だと思います。
ご本人からは、なかなか言い出しません。「お金がかかるから」「お前に迷惑だから」と我慢してしまう世代です。だからこそ、最初の一声はご家族から。それだけで景色が変わることがあります。
「まだ使えるのよ」は、片付けたくないという意味ではないのだと思います。自分が選んで、使って、大事にしてきたものを、ひとことで要らないと言われたくない。ただそれだけなのかもしれません。
生前整理は、終わりの準備ではなく、これからの暮らしを軽くする作業です。決めるのはご本人。まわりは、決めやすいように場を整えるだけ。そう思えたとき、あの気まずい空気は、ずいぶん薄くなります。
今日の1アクションは、これだけです。
次に実家へ帰ったら、家全体を見渡すのはやめて、引き出しを1つだけ指さして、「ここ、一緒に見てもいい?」と聞いてみませんか。断られたら、また今度でいい。その一言が、いちばん軽い入口です。
それでは、また。あなたのご実家の毎日が、少しでも軽くなりますように。
【免責事項】
本記事は、生前整理の依頼を検討するご家族・ご本人が判断材料を得るための、一般的な情報提供を目的としています。記載内容は執筆時点の情報に基づくもので、料金・許可・制度・法令の扱いは、地域や時期、ご依頼の内容によって変わります。特に、古物商許可・一般廃棄物収集運搬業の許可の要否、クーリング・オフの適用、相続や遺言の取り扱いは、お住まいの市区町村の窓口、消費生活センター、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家に必ずご確認ください。本記事は特定の事業者・サービスを推奨または保証するものではなく、事前にお見積りと契約内容をご確認のうえ、ご自身の判断と責任でお決めください。
【出典】
著者:秋元進吾