ここまで来たあなたに、最後の困りごとです。それは、講座を終えたあとも続く「これも学ぶべきでは」という、あの落ち着かなさです。
新しい技術の名前は、毎月のように流れてきます。そのたびに、乗り遅れている気がする。何かを学んでいないと不安で、でも何を学べばいいかは分からない・・・。この不安との付き合い方を渡して、講座を締めくくります。
工具箱にたとえます。
日曜大工を始めた人が、ホームセンターの工具売り場で全部を買う必要はありません。のこぎりと、ドライバーと、金づち。手持ちで足りない道具は、それが要る作業の日が来たら買えばいい。しかも道具は、必要な作業と一緒に買うと、使い方まで一度に身につきます。棚に飾るために買った道具は、いざ使う日には使い方を忘れているものです。
学習も同じだと、第4講で「必要になったら箱」を作ったときに約束しました。この講はその箱の、開け方の話です。
箱を安心して閉じておくために必要なのは、開けるべき日を見分けるサインを、あらかじめ書いておくことです。サインは、技術ごとに具体的に書けます。「データベースまわり・・・利用者の入力を、明日も残す必要が出た日(第18講の"データあり"を作る日)」「決済の仕組み・・・自分の作ったものにお金を払いたい人が現れた日」。サインが書いてあれば、その日が来るまでは、堂々と学ばずにいられます。不安の正体は、「いつか要るかもしれない」の"いつか"が白紙なことです。白紙を埋めれば、不安は静かになります。
そして、サインが来た日の学び方は、この講座でずっとやってきたことの繰り返しです。自分の実物にその技術を足そうとして、読めない場所をAIに読ませ、わざと壊して、直して、戻して、公開する。第0講の一枚から始めたやり方は、相手が新しい技術に変わっても、そのまま通用します。
最後に1つだけ、大事な区別を。いま要らないと、一生要らないは違います。第4講の3つの箱は、固定ではありません。あなたの作りたいものが変われば、「たぶん一生要らない」箱からこちらの箱へ、引っ越してくるものもある。箱の中身は、あなたの目的が並べ替え続けます。だから、この講座で本当に渡したかったのは知識の一覧ではなく、並べ替えの基準・・・"自分の作りたいもの・守りたいものから逆算する"という、あの1本の物差しです。
第4講で作った「必要になったら箱」のリストを出してください。作っていない人は、いま気になっている技術を3つ書き出すところからで構いません。
各行の右に、「必要になるサイン」を書き足します。コツは、技術の側からではなく、自分の作るものの側から書くことです。「流行ってきたら」はサインではありません。それはいつまでも来ないか、いつも来ているかの、どちらかだからです。「自分の一枚に、日記を書きためる機能を足したくなったら」は、サインです。
全行にサインが書けたら、そのリストを、自分の一枚と同じフォルダに保存してください。これが、あなたの工具箱の在庫表です。作りたいものが変わったときに開いて、並べ替える。それだけで、流れてくる新技術の名前に、心を乱されなくなります。
そのまま貼って使えます。
3つ目の質問を貼る日が、いつか来ます。その日のあなたは、第0講の日のあなたとは別人です。読めて、壊せて、戻せて、指示が出せる。新しい技術は、その土台の上に足す、一部品にすぎません。
不安を動機に、手を広げること。
不安が動機の学習には、分かりやすい特徴があります。教材を手に入れた瞬間がいちばん満たされていて、そのあと開かれないことです。不安は「学び始める」ことで一時的に鎮まるので、始めること自体が目的になり、身につく前に次の不安へ移る。こうして、最初の数章だけ読んだ教材が並んでいきます。
手を広げたくなったら、物差しに戻ってください。それは、自分の作りたいもの・守りたいものにつながっているか。つながっているなら、それは不安ではなく必要です。堂々と学んでください。つながっていないなら、サインを書いて箱へ。箱に入れることは、あきらめることではありません。要る日まで忘れていていい、という許可です。