車のカリキュラム第5講 車業界の過去と現在
🗺 目次
車のカリキュラム / 第1部 地図編

第5講 車業界の過去と現在

いまの選択肢は、歴史の結果でできている

車の値段が上がったのも、軽自動車が増えたのも、電気自動車の話ばかり聞こえてくるのも、 中古車がなかなか安くならないのも、全部つながっています。 この講は、その「つながり」を1本の線で見る回です。 いま店頭に並んでいる車は、過去100年の結果として、そこにある・・・そう思えるようになると、車選びの目がひとつ変わります。

01なぜ業界の話を知る必要があるのか

正直に言うと、車を1台買うだけなら、業界史を知らなくても買えます。ただ、知っていると得をする場面が3つあります。

第3講と第4講では、会社ごとの物語を見ました。この講では、それを横につないで、 全社が同時に何を経験してきたかを見ます。8社の歴史図解を1枚に重ねたようなものだと思ってください。

026つの時代でつかむ

日本の自動車産業を、大きく6つに区切ります。細かい年号は覚えなくてかまいません。流れの形だけつかんでください。

時代何が起きたかいまに残っているもの
1945〜1955
復興期
物を運ぶ手段が足りない。三輪トラックとオート三輪が主役。乗用車は輸入と少量生産商用車に強い会社の土台がこの時期にできた
1955〜1970
大衆化
純国産の乗用車が登場し、1966年ごろにマイカー元年。高速道路が延びていくいまも続く車名の多くがこの時期に生まれた
1970〜1985
規制と省エネ
交通事故の死者が最悪の水準に。厳しい排ガス規制。二度の石油危機で燃費が最重要に日本車の「小さくて燃費がよく壊れない」評価はここで決まった
1985〜1995
円高とバブル
円高で海外に工場を作る。国内は高級車と多様な車種があふれた時期いま中古で高値が付く名車の多くがこの時期の車
1995〜2010
再編と環境
不況で経営が苦しくなり、外資との提携が相次ぐ。ハイブリッドが登場し、ミニバンと軽が伸びるいまの会社どうしのつながりは、この時期の再編でできた
2010〜現在
電動化と人口減
電気自動車、運転支援、つながる車。同時に、人口が減り、免許を返す人が増えるいま店頭で起きていることは、ほぼこの流れの中にある
📊 図解⑥ 日本の自動車 100年の年表(A3横1枚)
社会・規制・技術・産業の再編を4つの流れで並べました。第3講の各社の歴史図解と、年の目盛りをそろえてあります。並べて見ると「あの会社の危機は、この時代の出来事だったのか」とつながります。

03規制が、車の形を決めてきた

意外に思われるかもしれませんが、車の姿を決めてきた最大の要因は、消費者の好みではなく規制です。 とくに日本では、軽自動車の規格が車の形をそのまま決めてきました。

軽自動車の規格が変わってきた歴史

時期変わったこといま中古を見るときの意味
1949年軽自動車という区分が生まれる
1970年代排気量が360ccから550ccへこの時代の軽は、いまの軽とは別の乗り物
1990年排気量が660ccへ(現在まで)いまの軽の基本がここで決まった
1998年衝突安全の基準に対応するため、車体の大きさが広がるこの年より前と後で、軽の安全性は大きくちがいます。中古を選ぶときの重要な区切り

1998年の変更は、いま中古で軽を探す人がいちばん知っておくべきことのひとつです。 安いからという理由で古い軽を選ぶとき、そこに何が入っていないのかを知っておいてください。

安全と環境の規制

1970年代排ガス規制。世界でも厳しい水準が求められ、各社が技術で応えた。日本車が世界で評価される出発点になった
1990年代エアバッグやABS(急ブレーキでもタイヤがロックしない装置)が広まる
2000年代不正が続いたことを受け、リコール(無償の回収・修理)の制度が強化された
2020年代新型車に衝突被害軽減ブレーキの装備が義務づけられた。乗用車の新車販売を電動車にしていく方針も示されている

要確認年次と適用範囲の細部は、公開前後にファクトチェックを行います。ここでは「規制が車を変えてきた」という流れをつかんでください。

04いま起きている5つの変化

過去の話はここまでです。ここからは現在。いま業界で同時に起きていることを5つに整理します。

1. 電動化

ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車、燃料電池車。動力の選択肢が一度に増えました。 ただし、どれが正解かはまだ決まっていません。会社によって賭け方がちがい、地域によって事情もちがいます。 買う人にとって大事なのは、自分の使い方と充電環境に合うかどうかだけです。

2. 運転支援

自動で止まる、車間を保つ、車線をはみ出さない。これらは高級車の特別な装備ではなくなりました。 軽自動車にも付いています。中古を選ぶとき、年式によってこの装備の有無が変わるのが大きな差になります。

3. つながる車

通信につながり、地図や機能が後から更新される車が増えました。便利な反面、 通信の契約や、更新がいつまで続くのかという新しい確認事項が生まれています。

4. 持ち方が増えた

買う以外に、カーシェア、レンタカー、月額で乗るサービス、残価を差し引いて月々を安く見せる払い方。 選択肢が増えたのは良いことですが、複雑になったぶん、総額を見ないと損をしやすくなりました。 ここは第15講「払い方で総額が変わる」で正面から扱います。

5. 人が減っている

人口が減り、免許を返す人が増え、若い世代は都市部で車を持たない選択をします。 その一方で、公共交通が減った地域では車がないと生活できません。同じ国の中で、車の意味が二つに分かれてきています。 販売店の統廃合も進んでおり、これは「近くに直せる場所があるか」という現実に直結します。

📊 図解⑦ いま起きている5つの変化(A3横1枚)
5つの変化それぞれについて、何が起きているか・買う人への影響・いつ効いてくるかを並べました。今日の判断にどう効くかまで書いてあります。

05買う人にとって、それが何を意味するか

なぜ車は高くなったのか

「昔はもっと安かった」という感覚は、間違いではありません。理由はいくつも重なっています。

つまり、値上がりの多くは会社が儲けを増やしたから、ではありません。 ここを理解しておくと、値引き交渉で無理を言わずにすみますし、逆にどこなら動かせるかも見えてきます。

中古車が安くならない理由

新車の生産が滞ると、待てない人が中古に流れます。すると中古の相場が上がります。 さらに、程度のいい中古車は数が限られています。この状態がしばらく続いてきました。

これは買う人には不利な話ですが、逆に言えばいま持っている車を手放すときは有利ということでもあります。 買い替えは、売る側と買う側の両方を同時にやる行為です。片側だけ見て損得を判断しないでください。

いまは買い時なのか

正直に言います。誰にも分かりません。相場を当てようとするより、 自分の生活の側の「必要な時期」で決めるほうが確実です。 通勤が始まる、家族が増える、いまの車の車検が来る。そういう自分の事情のほうが、相場より優先されるべきものです。

今日、ひとつだけ

家族や身近な年上の人に、「初めて買った車は何だった?」と聞いてみてください。 その車が何年ごろの、どの時代の車なのか。この講の年表のどこに置かれるのか。 業界史は教科書の中の話ではなく、身近な人の人生とつながっています。

06これから10年で変わりそうなこと

予測は当たらないものです。なので、確からしい順に3段階で書きます。断定はしません。

確からしさ起きそうなこと
かなり確か運転支援はさらに標準になる/販売店の統廃合は続く/中古車でも装備の年式差がはっきりする
たぶんそうなる電動車の比率は上がる(速さは地域差が大きい)/中古の電気自動車が増え、電池の状態を見る目が必要になる/持ち方の選択肢はさらに増える
分からないどの動力が主流になるか/自動運転がどこまで日常に入るか/車の価格が下がるかどうか

分からないことを分からないと書くのは、この講の姿勢です。 断定している情報ほど、あとで外れます。確かなことと、まだ決まっていないことを分けて考える・・・ これは車に限らず、大きな買い物のすべてに効く態度です。

出典と注記