23の講を通して、車の選び方、買い方、持ち方、手放し方を見てきました。 最後に、いちばん根本のところに戻ります。 そもそも、あなたに車は必要でしょうか。 この問いを最後に置いたのには理由があります。ここまで読んだ人だけが、この問いにきちんと答えられるからです。
最初にこの問いを置くこともできました。でも、それでは意味がなかったのです。
車を持つのにいくらかかるかを知らない人が「持たない」と言っても、それはただの思いつきです。 年間の維持費を9項目で数えられて、車検も保険も消耗品も分かったうえで、 それでも持つと言うのか、持たないと言うのか。そこで初めて、それは選択になります。
このカリキュラムは、車を買わせるためのものではありませんでした。 自分で決められるようになるためのものでした。 その意味で、この終章は最初の講と同じことを言っています。 形を選ぶとは、何をあきらめるかを選ぶこと。持つか持たないかも、まったく同じ構造です。
| 手段 | 向いている使い方 | 気をつけること |
|---|---|---|
| カーシェア | 短時間、近距離。買い物や送迎 | 近くにステーションが要る。人気の時間帯は埋まる |
| レンタカー | 1日以上、旅行や帰省 | 予約が要る。繁忙期は高くなる |
| タクシー・ 配車サービス | 雨の日、荷物が多い日、飲んだあと | 距離が長いと高い。地方では台数が少ないことも |
| 公共交通 | 通勤通学、都市部の移動 | 本数と終電。地域差が非常に大きい |
| 自転車・ 電動アシスト | 近距離、買い物、送迎 | 天候と坂。子どもを乗せる場合は安全面の確認を |
| 宅配・ 移動サービス | 買い物、通院の付き添い | 地域によって使えるものが変わります |
ひとつで代わりになるとは限りません。組み合わせて、車1台ぶんの働きを作るのが現実的です。 平日は自転車と電車、雨の日はタクシー、旅行はレンタカー。この組み合わせで足りる人は、実際にいます。
数字にしてみましょう。第17講で出した年間維持費が、そのまま比較の材料になります。
ここで大事なのは、使う頻度によって答えがはっきり変わるということです。
| 使う頻度 | 傾向 |
|---|---|
| 毎日 | 持つほうが安く、楽なことがほとんどです |
| 週に2〜3回 | 使い方しだい。距離が短ければ持たない選択も現実的 |
| 週に1回程度 | 持たないほうが安くなることが多い |
| 月に数回 | 持たないほうが安いことがほとんど |
この話をするときに、絶対に忘れてはいけないことがあります。 「車を持たない」という選択ができるのは、それが可能な地域に住んでいる人だけだということです。
| 都市部 | 公共交通の少ない地域 | |
|---|---|---|
| 車の位置づけ | あると便利なもの | 生活の前提 |
| 駐車場代 | 高い。年間で数十万円になることも | 安い、または自宅の敷地内 |
| 代わりの手段 | 電車、バス、タクシー、カーシェア | 限られる。本数も少ない |
| 持たない選択 | 現実的 | 難しいことが多い |
第5講で「同じ国の中で、車の意味が二つに分かれてきている」と書きました。ここがその話です。 通院に車が要る、買い物に車が要る、仕事に車が要る。そういう場所では、車は贅沢品ではありません。
持たない選択を勧める記事は世の中にたくさんあります。 でも、それは都市部に住む人の前提で書かれていることが多いのです。 あなたの生活の条件は、あなたにしか分かりません。 だからこのカリキュラムは、答えではなく計算のしかたを渡してきました。
最後に、計算では出てこないことを書いておきます。
深夜に家族が熱を出したとき、すぐに病院へ行けること。 行きたい場所に、行きたい時間に行けること。 好きな車に乗っているときの、あの気分。 家族で出かけた日の、車の中の会話。
これらは家計簿に載りません。でも、確かに価値です。 第11講で、輸入車を選ぶ人の話をしたときと同じことを言います。 数えたうえで、それでも欲しいなら、それは正しい買い物です。
逆に、持たないことで得られるものもあります。 駐車場を探さなくていい気楽さ。維持費のぶんを別のことに使える自由。 運転しなくていい安心。どちらを選んでも、失うものと得るものがあります。
23の講と34枚の図解を通して渡したかったのは、車の知識そのものではありません。 知識は変わります。制度も相場も、数年で古くなります。
渡したかったのは、この3つでした。
| 1 | 自分の数字を持つこと。年間走行距離、高速の比率、駐車場の幅、出せる年間コスト。数字を持っている人は、店頭でも、ネットの書き込みの前でも迷いません |
| 2 | 総額で考えること。月々の支払額ではなく、買った額から手放した額を引いて維持費を足した金額。これが本当のお金です |
| 3 | その場で決めないこと。本当に良い条件なら、翌日でも良い条件のままです。急がせる理由がある側の都合に、付き合う必要はありません |
この3つは、車以外にも効きます。家を買うときも、大きな契約をするときも、同じです。 車の買い方を学ぶことは、大きな買い物との向き合い方を学ぶことでもありました。
人生で一番大きな買い物は何ですかと聞かれたら、家、車、と答える人が多いでしょう。 たしかに金額は大きい。でも、家も車も、それ自体が目的ではありません。
家は、そこで暮らすためのもの。車は、行きたい場所へ行くためのもの。 道具にお金を払っているのではなく、その先にある生活にお金を払っているのです。
だから、いちばん大事な問いは「どの車を買うか」ではありません。 どこへ行きたいかです。 誰を乗せて、どこへ行って、何をしたいのか。それが決まれば、車は自然に決まります。 決まらないなら、まだ選ぶ時期ではないのかもしれません。
このカリキュラムが、あなたの「行きたい場所」に少しでも近づく助けになれば、それ以上のことはありません。 いい1台に出会えますように。あるいは、車のない身軽な暮らしが、あなたに合っていますように。 どちらを選んでも、自分で決めたのなら、それが正解です。
紙に、行きたい場所を3つ書いてみてください。近くでも、遠くでもかまいません。 誰と行きたいかも書き添えて。 その3行が、あなたの車選びの、いちばん最初の条件です。 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。